奥黒部の自然
|
何百年もかかって木々が成長し、光合成によって有機物を生産し、岩の上を土壌で覆ってこの森林を形成してきたに違いない。太い枝のように発達した巨大な根が岩を包み込んで、土壌の流出や斜面の崩壊を防いでいるかのようである。このような木々の営みがあるが故、その森が豊富な水を貯えながら黒部川を潤しているのであろう。それはまた、林床に咲く草花、ツキノワグマやカモシカ等の野生動物を育むだけでなく、イワナをはじめとする川の生き物をも養っていることに他ならない。奥黒部のイワナは、アリをはじめとする森林棲の昆虫類をたくさん食べて生き抜いている。スマートではないが、逞しい根系を発達させた木々からなる森が、奥黒部の厳しい自然を豊かにしているのであろう。 |
||
黒部湖から上流部に向かって歩くこと数時間、いくつもの崖や沢を巻き、大木の根をまたぎ、サワグルミやオオシラビソに囲まれた山小屋・奥黒部ヒュッテにようやくたどり着いた。ここは、北アルプスのヘソといわれる赤牛岳や水晶岳につながる登山道・読売新道の入り口にあたる。また、黒部川の支流・東沢谷と黒部川の本流が合流する地点でもあり、まさに森と川に囲まれた自然の豊かな場所でもある。七月上旬、川の水温はまだ10度以下と冷たいこの時期に、奥黒部ヒュッテから黒部川の本流部に下りてみた。大きな岩がごろごろと転がっている広い河原から、木々の若葉を映しながら勢い良く流れている川を眺めていると、背後にカモシカが現れ、ゆっくりと河原を横切って崖を登って行った。 |
|||