軽い香りと重い香り

2008年10月15日 10:50 AM | 投稿者: | カテゴリー: 合成有機

キンモクセイの香りが秋を感じさせる今日この頃である。花の香りは揮発性である必要があるが、比較的低い適度の揮発性であることが必要で、全ての香りの成分が短時間のうちに揮発してしまうと、昆虫はその発生源である花に辿り着くことができず花は受粉することができない。そこで、これら花の香りは、炭素数10のモノテルペン類からなる「軽い香り」と炭素数15のセスキテルペン類からなる「重い香り」に大別される。

キンモクセイの香りの主成分はβ-イオノンやリナロールなどで、レモンの香りのリモネン、ハッカの香りメントール、クスノキの香りカンファーと同じく炭素数10のモノテルペンで、これらは蝶や蜜蜂など空を飛ぶ昆虫を遠くから呼び寄せるための「軽い香り」である。一方、香りの強いユリであるカサブランカやスズランなどの香りはファルネソールなどの炭素数15のセスキテルペン類が主の「重い香り」で、近くの地上を這う蟻などの昆虫を呼び寄せる働きをしている。

重い香りは、狭い地域にしか分散しないため、比較的少量の香り成分で長時間持続させることができ効率的であるが、狭い地域からしか受粉対象を選ぶことができず近縁交配となり易い。一方、軽い香りは広い地域に香りを分散するため大量の香り成分を必要とし効率性は低いが、広い地域から受粉対象を選ぶことができ、こちらの方が進化した種と考えられている。

果たして進化とは、効率性を高めることであろうか?多様性を高めることではないのか?

(化学科・山口 晴司)

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