固体触媒で鏡像異性体を作り分ける

2011年01月19日 03:21 PM | 投稿者: | カテゴリー: 反応物性, 大澤グループ

身の回りには,ワイングラスのように実像とそれを鏡に映した鏡像が重なるものと,手袋のように実像と鏡像が重ならないものがあります。分子の世界でも実像と鏡像が重ならないものがあり,この1組の化合物を鏡像異性体(光学異性体)といいます。鏡像異性体は,生物に対する活性が異なる場合があるため,医薬品として用いる場合には,それぞれの鏡像異性体について,医薬品としての活性の試験とともに毒性の試験が必要です。そのため,医薬品原料を合成する場合には,鏡像異性体同士を作り分ける方法が必要になります。鏡像異性体を作り分ける方法の1つに固体触媒を用いた立体区別反応があります。固体触媒による立体区別反応は,(i) 触媒調製が容易である,(ii) 反応混合液から生成物の分離に使われるエネルギーが少量ですむ,(iii) 繰り返し使用が容易である,(iv) 反応に伴う廃棄物が少量である,などの利点をもち,鏡像異性体を工業的規模で作り分けるのに適していると考えられます。私たちの研究室では,このように環境になるべく負荷をかけずに物質生産が可能な立体区別固体触媒についての研究を行っています。

立体区別固体触媒の1つである酒石酸-NaBr-修飾ニッケル触媒は,酒石酸とNaBrをニッケル表面に吸着させた触媒で,式1, 式2に示すような反応で,生成物の鏡像異性体をそれぞれ95:5,90:10の比で得ることができます。酒石酸は,ワイン製造の搾りかす中に含まれている化合物で,食品添加物などに使用されています。酒石酸とNaBrをニッケル表面に吸着させることを「修飾」と呼びますが,私たちは,結晶性の高いニッケル触媒を反応溶液中で修飾すると(in situ修飾法),繰返し使用しても劣化の少ない触媒が得られることを見いだしました。現在,さらに高い立体選択性・耐久性をもつ触媒の開発,鏡像異性体を作り分けるメカニズムの解明について,ニッケル触媒の構造の面から研究を進めています。
(化学科 大澤 力)

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