作品リスト
ドラえもん学
はじめに
「日本を代表する現代文化といえば何ですか?」と聞かれたときに、マンガ・アニメと答えることに、もうそれほどの抵抗感はないと思う。カルチャーがないからサブカルチャーばかりが目立つのだと揶揄されることもないわけではなかったが、そんな声もかき消されるほど、世界中に日本マンガ・アニメ文化は紹介され、定着している。
日本のマンガ史上空前の栄華を極めた「黄金の八十年代」。この時代に、日本を代表するキャラクターが海を渡り、世界に羽ばたいた。ドラえもん。世界中の子どもたちを魅了し、子どもたちのヒーローとなり、スーパーアイドルとなり、一番仲良しの友だちにまでなったドラえもん。
私は「マンガ学」の専門家ではないので、マンガ世界の現状を大きな視点から語ることもできなければ、絵のタッチやコマ割りなどマンガの技法について解説する自信もない。ただ不覚にも(?)齢五十を過ぎて、ドラえもんを誰よりもこよなく愛してしまった・・・・・・。
今後何世紀にもわたって読まれ、語り継がれる作品となる手助けができれば−その一年で「ドラえもん学」なるものを打ち立てたわけだが、幸いにも大学の研究者という立場にいたので「学問」と呼んでいるが、まあ、いってみれば少々くわしい一ドラえもんファンである。
そんなドラえもんファンなら日本中にいっぱいいるだろうし、カルトクイズでも出せば即座に答えられる人も少なくないであろう。実際、作品の細部まで突っ込んだ「謎解き本」もこれまでになくはない。本書は、そうした謎解き本ではないが、私なりの研究成果であるデータベースを駆使して、「ドラえもん学」の一端にふれてもらおうという試みである。 ドラえもんが日本において、どのように国民的スターへと登りつめたのか、その成長史を、前史、黎明期、成長期、発展・拡充期、充実期の五つのステップに分類してみたのが第1章。続く第2章で、ドラえもんが日本から世界に向けて旅たったプロセスを、主としてコミック本とテレビアニメからたどってみた。
ドラえもんの海外での活躍に関する情報は私の手元に皆無だったので、岩波書店の月刊誌『よむ』、小学館のムックシリーズ『ぼく、ドラえもん』、そして朝日新聞社や同社の『アエラ』などに記載されている貴重な記事を積極的に活用させてもらった。引用に際して、三社には深甚の謝意を表したい。
新しい試みとして、本書の後半では、文字のみでマンガ作品の面白さの核心を読者に伝えることができるかどうかの実験にチャレンジしている。たしかに、マンガ作品は絵と文字の集合体である。絵がなければ、マンガの魅力は半減するものと予想できる。しかしながら、藤子・F・不二雄先生はストーリー・テラーとしても非常に優れた手腕を発揮した方なので、絵がなくても文字のみで十分鑑賞できる作品を多数創作している。ドラえもんのミッション、のび太の結婚までの道のり、主人公の意外な素顔、SF(少し不思議な話)的ギャグマンガ、環境問題など、代表的なドラえもん作品、あるいはドラえもんマンガのエッセンスを余すことなく盛り込んだ作品をピックアップして紹介してみた。
版権の厳しいマンガ作品の真髄を文字のみで伝えることはかなり冒険であるけれども、作品の内容が非常に優れている場合、こうした方法でも作品の世界への案内役として貢献できるのではないか。絶版になっている作品、あるいは出版から年月の経っている作品が少なくない以上、文字のみによる紹介でも、十分にドラえもん世界へ誘うことが可能ではないか。
程度の差はあれ、何らかの形でドラえもんにふれてきたはずのみなさんが、本書を通じてさらにドラえもんに親しみ、ドラえもんが世代を超えたコミュニケーションの潤滑油として会話の端々で語られることを願ってやまない。
「ドラえもん学」の構築をめざし、ドラえもん学の古典化を夢みて、還暦過ぎてもドラえもんを追い続ける私にとっての四冊目のドラえもん本が、夢に一歩でも近づいた作品になっていれば、これに勝る喜びはない。
PHP新書出版部の林知輝氏の、ドラえもんのような温かいまなざしと励ましによって、のび太のような私が一冊の本をまとめることができた。心よりお礼申し上げたい。
2005年3月
横山泰行
ドラえもん学
目次
はじめに
第1章 ドラえもんの来た道
T ぼく、ドラえもん−−−前史
「ドラえもん誕生」・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・16
野良ネコ+ポロンちゃん×自分・・・・・・・・・・・・・・・・18
明らかになった生い立ち・・・・・・・・・・・・・・・・・・・20
「映画2112年ドラえもん誕生」・・・・・・・・・・・・・・22
すべてはまちがいから始まった・・・・・・・・・・・・・・・・25
あの悲劇・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・27
1970年1月1日・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・29
U 思いがけない長期化−−−黎明期(1970年1月〜1974年7月)
突然の最終回・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・32
意外に早く登場した人物・・・・・・・・・・・・・・・・・・・35
リサイタルと入浴シーン・・・・・・・・・・・・・・・・・・・38
半年で打ち切りとなった最初のテレビアニメ・・・・・・・・・・40
V 国民マンガの礎−−−成長期(1974年8月〜1979年3月)
読者層の拡大・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・43
ドラえもんのための雑誌・・・・・・・・・・・・・・・・・・・45
のび太の特技=あやとり・・・・・・・・・・・・・・・・・・・48
なぜかパーマン・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・50
W スーパーアイドルへの道−−−発展・拡充期(1979年4月〜1986年7月)
テレビアニメと映画がドラえもんフィーバーを呼び込んだ・・・・53
もし大長編が欧米で翻訳されていたら・・・・・・・・・・・・・57
オリジナル作品の大放出・・・・・・・・・・・・・・・・・・・60
のび太のライバル初登場・・・・・・・・・・・・・・・・・・・63
ドラやきの禁断症状・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・65
ついに判明したのび太のママの旧姓と年齢・・・・・・・・・・・67
X 時代を超えて−−−充実期(1986年8月〜)
ドラえもん終了の噂・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・71
でることがなかった第四十六巻・・・・・・・・・・・・・・・・76
全盛期のコンビ解消・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・78
悲しい重大事件・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・80
ドラえもん壊れる・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・82
教科書に登場したドラえもん・・・・・・・・・・・・・・・・・86
みんなといっしょに社会見学・・・・・・・・・・・・・・・・・89
発掘! 幻の作品・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・92
「ドラえもんはこういう声だったんですか!」・・・・・・・・・93
第2章 「マンガ世紀」のドラえもん
T 脅威の数字ハンター
コミック本が浸透した理由・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 98
毎年がミリオンセラー・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・100
日本文化の牽引者・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・102
U ドラえもん、日本から世界へ
最強の親善大使・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・105
日本のディズニー・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・107
ドラえもんの法則・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・110
横行する海賊版・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・113
大雄=ジング=ノビタ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・115
テレビアニメで世界に飛翔・・・・・・・・・・・・・・・・・・117
V 世界各国ドラえもんめぐり
父兄からの抗議殺到−中国・・・・・・・・・・・・・・・・・・122
日本初だと知らないくらい定着−台湾・・・・・・・・・・・・・124
正義の象徴−タイ、シンガポール・・・・・・・・・・・・・・・126
日本的な子ども観−インドネシア・・・・・・・・・・・・・・・128
国策と宗教的背景−韓国・・・・・・・・・・・・・・・・・・・131
戦争の傷跡−フィリピン・・・・・・・・・・・・・・・・・・・132
ドラえもん基金が子どもたちを救う−ヴェトナム・・・・・・・・133
ヨーロッパ初上陸−イタリア・・・・・・・・・・・・・・・・・135
自立心との葛藤−その他の欧米諸国・・・・・・・・・・・・・・137
第3章 あらすじで読むドラえもん
T 白いのび太と黒いのび太
ドラえもんに与えられた役割・・・・・・・・・・・・・・・・・140
二人ののび太の闘い−「きらいなテストにガ〜ンバ・・・」・・・141
ドラミちゃんにはかなわない?−「ションボリ、ドラえもん」・・144
寅さんの「気まま」とのび太の「甘え」・・・・・・・・・・・・147
「さようなら、ドラえもん」・・・・・・・・・・・・・・・・・149
U のび太の結婚
運命は変えられるのか?・・・・・・・・・・・・・・・・・・・153
大逆転のプロポーズ−「雪山のロマンス」・・・・・・・・・・・155
のび太が自殺する!?−「しずちゃんさようなら」・・・・・・・158
父親のメッセージ−「のび太の結婚前夜」・・・・・・・・・・・162
勝負はこれから−「りっぱなパパになるぞ」・・・・・・・・・・165
V 素顔の仲間たち
しずちゃんの優しさが地球を救う
シズカサンノタメナラ−「のび太の海底鬼岩城」・・・・・・・・168
ロボットに気持ちが通じるか−「のび太と鉄人兵団」・・・・・・170
他人を思いやる心・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・174
ジャイアンも頭を使う
意外とおしゃべりなガキ大将・・・・・・・・・・・・・・・・・177
ジャイアンの情報戦略−「ふつうの男の子にもどらない」・・・・179
スネ夫の隠れた美質
なぜしずちゃんと仲がいい・・・・・・・・・・・・・・・・・・183
巨人といわれたスネ夫−「のび太の宇宙小戦争」・・・・・・・・186
W 少し不思議なギャグマンガ
科学ワールドへの誘い−「ネッシーがくる」・・・・・・・・・・190
思わず失笑してしまうドタバタ劇−「デンデンハウスは気楽だな」194
X 時代を先取りしたメッセージ
地上を洗い流すノア計画−「のび太の雲の王国」・・・・・・・・197
ドラえもんたちの誓い・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・200
横山泰行:ドラえもん学、PHP新書、205頁、2005年5月2日。
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