この結果から降水・降雪の結果を用いる場合は研究地域に応じた降水・降雪の結果を使用するのが好ましいと考えられる。(ex: 地下水の降水寄与率の算出)
降水の季節変動に関して、pHやEC(電気伝導度)といった現場測定を行った結果、図10のように夏季と冬季で測定結果に違いが生じた。冬季になると気流は大陸側から流れてくるため、中国から発生する大気汚染物質(SOx・MOx...etc)も運ばれ、電気伝導度の増加、pHの低下が生じた。
水素・酸素安定同位体比については、季節変動は少なく、経年変化も過去の研究データ(佐竹、1984)と比較しても変動は見られなかった。
地域による違いとしては、気流は富山県西部側から流れてくるため、内陸効果により呉羽丘陵を境に富山県西部の同位体比は高く(重く)、東部は低い(軽い)ことが観測できた。
図10 降水におけるpH・電気伝導度の季節変動
富山市を中心に水温・水質観測装置を設置し、地下水の経時変化を観測した(図11)。降雪時には地下水位が低下し、道路消雪の影響があることが確認できた。
中でも注目したのが地下水温と気温の関係である。冬季には気温は0℃にまで達しているが、地下水温は夏季に比べ、冬季の方が高い地点がいくつか確認できた。これは夏季に温度の高い水が地下に浸透し、約半年遅れで観測点にまで到達したと考えられる。特に赤田と呼ばれる地域ではその変化が大きく、夏季と冬季において外気と地下との温度差が大きいことから、よりGeo-HPを行うのに最適な地点を選出できた(図12)。
図11 常願寺川・神通川扇状地地下水温と気温の経時変化図 図12 Geo-HPの有望地点位置図
図6 富山県におけるGeo‐HPの利用可能図
富山県での地下水の熱資源利用のため、地球化学的解析と数値解析の結果からオープンタイプ(地下水直接利用型)とクローズドタイプ(地中熱交換)の利用可能地域をそれぞれ推奨する(図6)。図6に示したGeo-HPの利用可能図から富山県のほぼ全域で低コストのオープンタイプGeo-HPを使用することが可能であると考えられる。
富山県での調査はどの地域も広範囲で行い、全体的な傾向を確認できたので、今後は@クローズドタイプ推奨地域でも調査範囲を限定して行うこと、またAオープンタイプ推奨地域の中でも有力な地点を算出し詳細な調査を行うこととする。
研究を行っている岡北は富山県全域と岐阜
県の北部(白川郷)に降水・降雪の採水装置を
設置した(全10ヶ所)。水素や酸素安定同位体
比、現場測定結果を用いて大気中の水や物質
の循環を検討している。また同時に地下水の観測も行い、得られた結果から地表から地下への涵養状況を解明していく。
日本海沿いに位置する富山県は夏の最高気温が30℃を
超え、冬の最低気温は0℃にまで達する。またこの地域は
降水量、降雪量ともに多いことも特徴の1つであり、地下水
が非常に豊富である要因となっている。富山大学でも昔から
富山県の降水・降雪の研究が多く行われてきたが、ほとんど
の観測は富山大学の屋上でしか行われておらず、県全体の
降水状況を評価するには十分ではないと考えた。そこでこの
研究では、富山県全域に降水の観測地点を設置し、地域
ごとで詳細に降水・降雪の挙動を考察していくことを目的と
している。
さらに数値シミュレーションを用いて、地下水の流速や流動方向・地下水位などを3次元数値モデルで再現し、地球化学的解析結果と比較して整合性を求めます。また地下水流動の将来変動予測を行い、ヒートポンプを使用した場合の想定だけでなく、将来環境変化や地下水汚染対策にも応用することが可能となります。
地下水調査は現在まで庄川扇状地、常願寺川および
神通川扇状地、黒部川扇状地(@)でそれぞれ岩竹、平田、小田また福井県の鯖江市内(A)では山田が行っている(図3)。
ヒートポンプにはオープン型とクローズド型の2種類があるが、地下水が豊富な富山県では安価なオープン型を使用する
ことが非常に望ましい。ここでの研究はオープン型のヒート
ポンプを導入することを前提に行っている。行っている研究内容については安定同位体比や主要化学成分を利用して地下水の起源や流動方向、炭酸カルシウムや鉄のスケール生成の確認を行っている。
富山県をはじめ、北陸地域は地下水資源が非常に豊富であり、工業用水、田畑の灌漑、融雪など幅広く利用されている。しかし過度の工業用水の利用や冬季の大雪時の融雪により地下水位の著しい低下と地盤沈下が度々発生してきた(図1)。この問題の解決策の1つとして、地中熱利用ヒートポンプ(Geo-HP)を使用した地下水無散水の融雪が考えられる(図2)。さらにこのシステムは室内冷暖房など節電利用も可能である。したがって富山県での地下水の熱資源利用のため、地球化学的手法を用いた水質解析や数値シミュレーションを使った地下水流動解析を行うことを目的としている。
図9 降水・降雪調査の様子(左:岐阜県北部の白川郷、中央:富山県川田工業の屋上、右:上市ダム)
図8 富山県の年間の気温・降水量・地下水温(富山県より)
図7 降水・降雪の研究区域
(各扇状地を含む図中の黄色)
図5 3次元数値モデル(左がDtransu-3D、中央と右がMODFLOWによって作成したモデル)
図4 地下水調査の様子(左から庄川扇状地、常願寺川・神通川扇状地、黒部川扇状地、鯖江市内)
* 富山県における降水の涵養状況の解明 *
図3 地下水の研究区域(図中の薄緑)
図2 地中熱利用ヒートポンプ(GeoHP)の概念図
(三菱マテリアル資源開発(株)より)

図1 富山市の地下水位変化と過去の地盤沈下量(富山県より)
* 熱利用を目的とした北陸地域の
地下水の地球化学的及び数値解析 *
水収支 (地下水・降水)
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