「中和凝集沈殿法とは?」

前馬恵美子・野田 知紗・広瀬優一郎

中和凝集沈殿法の概要

☆ 凝集沈殿法は,水処理における単位操作の一つであり,水中に懸濁状態で存在する物質を凝集剤により凝集し,沈殿させた後に液中から分離する方法である。すなわち,廃液中の重金属イオンの除去は,水に難溶な化合物,たとえば水酸化物,硫化物などを生成させて,凝集沈殿法で沈殿分離することになる。水中に存在する重金属イオンはpHの上昇(OH-イオン濃度の増加)とともに金属水酸化物となり沈殿する。一方,凝集剤として加えられている鉄(III)も水酸化鉄(III)として沈殿するが,そのときに他の金属水酸化物と凝集しながら沈殿をする。この沈殿を液中から取り除けば液中には重金属イオンは存在しなくなる。

☆ 粒子の沈降速度は、粒子のサイズや密度が大きくなるほど増し、逆に液体の密度が大きくなると低下する。粒子サイズが0.01mm程度以上の懸濁物質は自然に沈降する。それ以下の粒子では沈降速度が約1cm/min以下となるために、凝集剤を添加して粒子サイズを大きくし沈降速度を高くする。さらに懸濁状態から溶解状態や、コロイド状態の場合は、粒子の表面が同符号の電荷に帯電し(多くの場合負電荷:ゼータ電位)互いに反発し、安定に分散している。これに反対電荷をもつコロイド液か電解質溶液を添加すると電荷が中和されて粒子間に引力が働き塊状になり沈殿する。これが凝集沈殿である。凝集剤には、無機性の硫酸アルミニウム、ポリ塩化アルミニウム、硫酸鉄、塩化鉄などがあり、リン酸塩は消石灰や硫酸バン土によりを析出、除去する。高分子凝集剤は従来はコロイド粒子のみであったが、最近は着色性物質、COD、油分なども除去できる。

☆ とても小さいコロイド状(10-7〜10-4cm)の物質は、溶液中で電荷を帯びており(負の電荷を帯びる事が多い)、その影響から互いの反発作用によって分散し、沈殿せず、さらに粒子が小さい為に濾過する事も出来ないコロイド溶液の状態にある。

 そこで、ポリ塩化アルミニウムや塩化鉄(III)などの電解質を加える事で、コロイド粒子の電荷と逆電荷を持つイオンが粒子に吸着し、粒子の電荷が中和されて、この粒子同士が衝突し大きな粒子となり沈殿しやすくなる。さらにコロイド物質を(多孔性であり重い為に沈殿しやすい)鉄・アルミニウムの水酸化物の中に包み込む事によって除去する。

 液中で酸性のイオン状態の重金属イオンはpHの上昇にともない金属水酸化物になり、凝集剤として加えたアルミニウム、鉄の水酸化物と共に沈殿する。

 重金属水酸化物の水に対する溶解度はとても小さいものが多く、この水酸化物が沈殿するためには、金属イオン濃度と水酸化物イオン濃度の積が水酸化物の溶解度積より大きくなる事が必要である。

 凝集性・沈降性を良くする為に、凝集補助剤(高分子補助剤なら分子の吸着に基づく架橋作用として働き、フロック生成時間が短くする)を用いる。

共沈とは?

☆ 普通はあるpHで水酸化物として沈殿しない金属イオンも生成した沈殿に取り込まれることがある。この事を共沈と言う。

☆ 多くの物質が共存している場合の沈殿生成においては,一般に特定物質のみが析出・沈殿することはまれであり,多少の他物質を伴って沈殿する。このような他物質を伴うような沈殿現象を共沈という。単独に存在するときには沈殿しないような条件でも,ある種の沈殿に誘われて沈殿する現象を誘発沈殿という。たとえば,廃液中からカドミウムを除去する場合,溶解度積から計算すると pH10以下では排水基準値の0.1 mg/l 以下にはならないが,多量の鉄,亜鉛などが共存していると共沈現象によってpH10以下でも基準値以下になる場合がある。共沈現象は沈殿への金属イオンの吸着あるいは沈殿生成のとき沈殿に包み込まれることによるものであるといわれている。

☆ 多くの物質が共存している場合の沈殿生成においては,一般に特定物質のみが析出・沈殿することはまれであり,多少の他物質を伴って沈殿する。このような他物質を伴うような沈殿現象を共沈という。単独に存在するときには沈殿しないような条件でも,ある種の沈殿に誘われて沈殿する現象を誘発沈殿という。

処理手順

☆ 凝集剤の添加→粒子と接触させる為の急速攪拌→フロックを大きくする為の緩速攪拌→フロックの沈降→上澄み液と沈殿物(スラッジ)を分離 という手順で処理される。

上澄み液は放流、または次のプロセスへ。スラッジは脱水し、埋め立てか、リサイクルへ。

特徴

☆ 無機凝集剤の凝集能力は金属イオンの原子価の違いにより変化し、多価の陽イオンの方が能力に優れている(少量で多くのコロイド粒子を中和できる。コストや効果の面からFe3+、Al3+が使われる。)。Fe、Alの水酸化物はゲル状でコロイド粒子への電荷影響も大きく多孔性で、表面積も大きいので重金属をよく除去し沈殿しやすい。

 有機凝集剤も多くの種類があるが、合成高分子凝集剤(ポリアクリルアミドなど)が主流となっている。これは沈殿フロックが細かく沈降しにくい時の凝集補助剤として使われる。

 処理は...

「排 水」共存金属・塩類・含有有機物の種類と濃度

「処理剤」凝集剤・中和剤・凝集補助剤の種類と濃度

「操 作」熟成時間、攪拌条件、処理水温度

...などの影響を受けやすい。

「利点」凝集剤等の化学物質を入れ撹拌するだけでいいため、処理装置・方法が安価であり簡単で単純な事である。

「欠点」水銀処理について:水酸化水銀は溶解度が大きくpHの調整だけでは処理できないからキレート樹脂,活性炭などで吸着する方法がとられている。有機水銀化合物は次亜塩素酸ナトリウムなどの酸化剤で分解して無機水銀としてから処理を行う必要がある。

「欠点」6価クロムなど価数の大きなものは、一般的に処理しにくい為に前処理で価数を下げておく必要がある。

「欠点」有機物質が含まれている廃液中では重金属錯体を形成して、金属の除去性が悪くなり、さらに錯体を生成してもどの有機物との錯体かまでは特定が出来ず対策をたてられない事が多い。

「欠点」生成スラッジの含水量が多く、有効的な再利用方法がない。

「欠点」コンクリート固化して埋め立てにもスラッジ内の重金属が溶出する危険性や、元の体積よりも増えているので埋め立て場所の確保の問題などがある。

参考資料

「岡山大学保健環境センター環境安全部門HP」
「環境用語集:「凝集沈殿」」EICネット
「無機廃液処理の概要」
「大学等における廃棄物処理とその技術」大学等廃棄物処理施設協議会編
「環境教育テキスト」中村以正、山田浩司編
「基礎分析化学」本浄高治ほか