A2102)ポリチオアミド:有価金属の吸着剤

廃液に含まれる有価な金属を回収しようという試みは数多くの研究者らによって行われ,一部実用化されてきています。中でも重金属捕集能を有する高分子吸着剤(例えば錯形成能を持つ官能基を導入したキレート樹脂)を用いた有価金属の吸着回収技術は,最も便利な方法の1つであり,現在も様々な吸着剤が開発されてきています。しかし,開発の多くが水溶液系での使用,すなわち「無機系重金属廃液」からの金属回収を想定したものであり,「有機系廃液」からの金属回収に威力を発揮する吸着剤は精力的に開発されているとは言い難いのが現状です。

有機化学の分野などにおいては,貴金属類の錯体を触媒として用いた合成研究が盛んに行われています。合成後,錯体触媒の多くは有機廃液中に廃棄されます。有機廃液は一般に焼却・熱分解処理され,廃液に含まれていた金属は焼却灰・飛灰などに移行します。これらの灰は,その一部がセメント原料や道路の路盤剤などとして再資源化されているだけで,ほとんどが埋め立て処分されているのが現状です。

 

このような中,我々は,有機廃液に含まれる有価な金属を焼却・熱分解処理する前に回収することを目的に,有機廃液中でも使用可能な吸着剤を探索したところ,最近,共同研究者により開発されたポリチオアミド類が有用であることを見出しました。

数種のポリチオアミド(Scheme 1)を用いてメタノール溶液からのいくつかの金属の吸着捕集を試みたところ,金,白金などを効率よく捕集できることがわかりました(Fig. 1)。

 

また,ポリチオアミドの構造により金属捕集能も変化することがわかってきました(Fig. 2)。このポリチオアミドを用い,モデル廃液からの金の回収を試みたところ,満足いく結果が得られています。また,ポリチオアミドは,種々のジアルデヒドとジアミンとを硫黄の共存下で反応させることにより容易にかつ安価に調製することができることも特徴の1つです。

Fig. 1 メタノール溶液中からのAu, Pt, Pd及びCuの回収(Poly-1とPoly-2)

Fig. 2 メタノール溶液からのNi及びCoの回収(Poly-1〜4)

 

なお本研究は,筑波大学教授の神原貴樹先生と共同で行っています。

また本研究は,(財)昭和シェル石油環境研究助成財団および(財)住友財団(環境研究)から助成を受けて実施しました。

 

【関連研究】

B3101> 無機・有機廃液からのパラジウムの選択的分離回収技術

【関連論文】
Shigehiro Kagaya, Emi Sato, Ikumi Masore, Kiyoshi Hasegawa, and Takaki Kanbara, Chem. Lett., 32(7), 622-623 (2003).
【関連特許】
◇ 神原貴樹, 加賀谷重浩, 特願2005-152663.