B1203> 硫化物イオンによる妨害を受けない全水銀の迅速定量法

全水銀の排水基準は0.005mg/Lと定められています。全水銀の検定法は日本工業規格(JIS)の工場排水試験方法(K 0102)に規定されていますが,全操作に約3時間を要し,迅速性に欠けます。

 

Fig.1 硫化物イオンを含む試料水中の水銀測定に及ぼす次亜塩素酸ナトリウム添加量の影響

一方,試料溶液をアルカリ性にし,銅(II)と共に塩化スズ(II)を加えて無機・有機水銀を還元気化し,原子吸光法にて測定する方法(アルカリ還元気化-原子吸光分析)は,全水銀を5分程度で定量できる優れた方法ですが,試料水に含まれる硫化物イオンの妨害が顕著であり,水銀廃液処理工程に硫化物沈殿法を用いている場合,その廃水・排水分析への適用が困難でした。

 

我々は,アルカリ還元気化-原子吸光分析において,次亜塩素酸ナトリウム水溶液を添加して硫化物イオンを酸化することにより妨害を除去できることを見出しました(Fig.1)。これにより,アルカリ還元気化-原子吸光分析でも,硫化物イオンを含む廃水・排水中の全水銀を迅速・簡便にモニタリングすることが可能になります。

【関連論文】
Shigehiro Kagaya, Yoshiharu Kuroda, Yuka Serikawa, and Kiyoshi Hasegawa, Talanta, 64(2), 554-557 (2004).
Shigehiro Kagaya, Takuya Nishimura, and Kiyoshi Hasegawa, Fresenius J. Anal. Chem., 363(1), 112-113(1999).