最近の日本経済
1997.11
1.バブルの発生と崩壊
日本経済はバブル崩壊(90年代に入って)の後遺症を抱えて、足取りが冴え
ないし不安定。
ここでバブルで得られた教訓をみよう。
バブルとは、実体経済ないし基礎的条件(ファンダメンタルズ)からかけ
離れて資産価格が上昇することをいう。もともとは泡沫会社を指していた。
(1) バブル発生の条件
・耐久性・稀少性・共通の確信
蘭や金魚、鯉、絵画なども投機の対象・・・・希少性
土地は3条件をすべて満たす
(2) バブル発生の要因
・合理的期待形成
・美人投票・…J.M.ケインズ
・サンスポット理論
・グレーター・フール説
(3) バブルで有名な話
・オランダのチューリップ狂 1637年崩壊
・サウス・シー・バブル 1720年崩壊
・アメリカ大恐慌 1929年
(4) 日本のバブル
・バブル崩壊後の株式・土地のキャピタル・ロス
日本のGDP(1991年 463兆円)を超えるロスの発生
株式 1990〜1992年 490兆円
土地 1991〜1993年 511兆円
・80年代後半のバブルの原因
企業収益の大幅拡大・…景気の急拡大
オフィス需要の増加・…情報化、金融の国際化
金利低下・…金融の緩和基調
3〜4%の実質経済成長に対してマネーサプライ成長率
が10〜12%と高すぎた。
資産価格上昇期待の強まり
(5) バブルの教訓
潰れるのがバブル。
バブルですべての人が得するわけではない。
バブルが崩壊すればすべての人が損をする可能性が大。
すべての人が得をするのは生産性の向上、付加価値の増大によって
である。
2.最近の日本経済の状況
バブル崩壊後、1994年が景気の谷で次第に回復している。
しかし、金融及び建設部門に不安定要因がある。
平成8年度
名目額 構成比
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
民間最終消費支出 303.2兆円 60.2%
民間投資 105.1 20.9
(内訳)企業設備 ( 76.5) (15.2)
在庫増 ( 0.5) ( 0.1)
住宅 ( 28.1) ( 5.6)
政府支出 92.7 18.4
財・サービス輸出 51.2 10.2
輸入 48.9 9.7
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
国内総支出 503.3兆円 100.0%
完全失業者数 225万人
完全失業率 3.3%
有効求人倍率 0.72
貨幣供給(M2+CD) 前年比 3.3%増
3.最近の消費者行動
(1) 消費の低迷
・勤労者の平均消費性向
H7年度 72.7%
H8年度 72.3%
H9年(1−6月) 71.4%
(2) 消費が伸びない原因
・負債/資産比率の上昇
バブルのつけが効いている。
家計部門の負債・資産比率
1985年 1990年 1995年
13.6% 12.1% 14.5%
最近の株価低迷、地価下落も一因
・負担の増大
消費税率の2%アップ(1997.4)
所得税減税の廃止
医療負担の増大
年金給付の削減予想(現在厚生省が検討)
・将来所得が伸びない予想の下では消費意欲が減退する。
雇用の不安定性
・中流意識の減退
リストラや経済の先行き不安から中流意識の弱まりや
中流階層の分解が部分的に始まっている。・…雇用の不安定性
・耐久消費財型消費から一過性型消費への消費の変化
自動車・パソコンなど耐久消費財の継続的使用という消費形態より、
旅行など一過性の消費形態が増加している。
事例:コンビニエンス・ストアの売上に堅調さがみられる。
低額旅行に人気がある。映画
4.低金利政策の影響
現在、超低金利状態が続いているがその効果の波及経路をみておく。
利子率低下の効果
・消費
低所得層・・・・将来所得の減少・・・・現在消費を減らす
高所得層・・・・貯蓄より消費が魅力・・・・現在消費を増やす
昭和49年の石油ショックの時は当てはまった。
しかし、現在は、高所得層も消費を減らす行動をとっ
ている。
低利子率と株価・地価低迷など将来所得の増加に不安
要因を抱えているからといえる。
・金融機関
低金利は金融機関を儲けさせるためにあるという人もいるが、正しく
ない。
金融機関が有利なのは金利が下がっている間である。
長期金利の低下が短期金利よりも遅いためである。金利の変化が止ま
ってしまえば、借入金利と貸出金利の差は利子率が変化しない前と同
じ条件になる。
低金利は、金融機関の不良債権処理を促進する効果という意味では確
かに有利である。
低金利は、企業の資金繰りを容易にする効果がある。
・為替相場
低下
理由:外国の投資資金が流出、外国為替の需要が増加
・資産価格
上昇
理由:資産価格は将来の収益の現在価値
・設備投資
増加
理由:資金が借り入れやすくなる
ただし企業の将来見通しや、資金調達方法に依存
設備投資が増えないのは景気に関して悲観的であるから
・地価・株価
影響は弱い
現在、低金利であるに関わらず、株価・地価が下落している。
バブルの後遺症で残り、期待収益率の低下、財務状況の悪化を反映。
企業の貸借対照表
・資産・・・・・流動資産(有価証券)、固定資産
・負債及び資本
有価証券は取得原価を基本とする。
ここから含み益と含み損が生じる。
5.株価の影響
・株価と実態経済
株式保有の目的・… 配当と資本利得
短期:保有の目的は資本利得(売買差益)
株価が変動するのは投機要因
長期:株価は長期的には収益の割引現在価値で決まる
したがって、株価は実体経済からかけ離れ得ない
・株価変動の影響
株価→家計の資産価値→消費
企業の投資利益率→資金調達→設備投資
金融機関の含み益→自己資本→資金調達・貸出
外国からの投株式資→円需要→為替レート
6.土地、住宅問題
(1) 土地・住宅の特徴
土地: 超長期耐久財、移動できない、生産要素
住宅: 長期耐久財、移動できない、不可分性、近隣外部性
(2) 日本の地価
・日本の地価は高い
1993年末 面積当たりの地価はアメリカの約90倍
面積当たりの名目GDPは約15.5倍
これより、日本の地価は高いといえる。
・地価が高い要因
東京圏一極集中
土地供給が非弾力的
(3) 住宅問題
・住宅着工が伸び悩んでいる。
政府は、住宅促進税制で、平成9年度 限度額35万円の控除を設けてい
るが、消費税率のアップ、駆け込み需要の反動などで住宅着工が伸び悩
んでいる。
・住宅建設の経済効果
新設住宅着工(建設省データ)
1994年度 1995年度 1996年度 1997年(1〜6月)
156万戸 149 163 70
建設省のリポート(日経新聞 1997年11月10日)
業界の予想では、今年度の新設住宅着工数は137万戸
こうしたことから、建設省では住宅建設の経済効果を推定
(A) 住宅建設10万戸による生産誘発効果
製材・木製品関係 2,095億円
窯業・土石製品 872
鉄 鋼 1,460
非鉄金属・金属製品 1,954
化学・機械・機器 1,650
その他の財 2,315
建 設 16,429
商業・運輸 2,531
その他のサービス 3,768
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計 33,078
(注意)丸めのため合計額が異なる。
(参考)住宅建設費 16,155億円
入居時耐久消費財購入額 1,108億円
(B) 住宅建設10万戸による雇用創出効果
23万人
・住宅建設のマクロ経済効果
平成8年度の住宅投資はGDPの5.6%を占める。
従って、住宅着工が昨年度の163万戸から137万戸に16%減少すると、
GDPの成長率は0.9%ポイント低下する。
7.日本経済の課題
(1) 政府の政策は効果があるのか
合理的期待学派とケインズ学派
・合理的期待学派
経済主体が市場構造の正確な情報を持っていれば、短期にも長期に
も財政・金融政策は無効と主張。
・ケインズ学派
短期には財政政策は有効、ただし長期には効果が小さい。
(2) 政府はなにをすべきか
・緊急
所得税・法人税の減税
金融機関の整理統合と不良債権の処理
国民に正確な情報を提示し、政策の透明性を高め安心感を抱かせる
・短期
透明で信頼できる市場形成
市場の自由化・・・・競争促進のための明確なルール、監視と罰則強化
情報開示
・構造改革や規制緩和の効果は長期的
規制緩和が効果的なのは、
新規参入が増加、
市場がより競争的になり、生産性が向上する
場合である。
参考文献
経済企画庁編『平成9年版 経済白書』大蔵省印刷局、1997.
小峰隆夫『最新日本経済入門』日本評論社、1997.
中村・田渕『都市と地域の経済学』有斐閣、1996.
野口悠紀夫『バブルの経済学』日本経済新聞社、1992.
米原淳七郎『土地と税制』有斐閣、1996.
マンキュー『マクロ経済学 T・U』東洋経済、1996.