公共経済学(Public Economics)
(1) 財政学から公共経済学へ
公共経済学は長い歴史をもち古典派の経済学にまで遡って拡張しうる。しか
し、1950年代半ばあるいは1960年代まで、経済的探求の区別しうる分野だとは
一般的には受け取られていなかった。公共支出についての経済学の考察は形式
的には財政学の分野に含まれていたが、この分野に特化した経済学者は公的資
金の支出よりもむしろ課税の問題に魅力を感じていた。
また、1950年代末までは、いくつかの理由から、財政学は課税の経済学とし
て広く解されていた。
公共支出が無視された理由
@公共支出プログラムの構成と帰着についての情報の不足
課税....個人、企業の所得や税額については相対的に明確。
支出....受益者がはっきりしない、市場での取引がない。
個人の評価、選好についての情報不足
A公共支出を特徴付ける会計責任の不足
多くの公共支出は分割可能性が小さくまた無形。これにより分
配へのインパクトと反応について明示的な分析は困難
B公的生産物に会計責任がつけられても、それらに付与される価値の
推定にかかわる困難
C公共支出の決定を取り巻く制度の構造が、これらの決定に適用され
る政策分析の発展を鈍いものにした。
(2) 公共経済学の発展
1950年代半ばから、公共経済学の理論と実際は急激に変化した。重要
な研究分野としての公共支出の経済学および政策分析の出現は、多くの
理由による。
@公共支出の経済学
a)・厚生経済学の発展
政府が市場経済に介入すべき緒条件を明確にし、社会目的を達
成するための手段の選択に指針を与えた。
集合的消費、外部性、社会の厚生の概念が正確に定義された。
・自由企業の前提が緩められた....寡占、独占、広告、差別価格
・応用厚生経済学
費用・便益分析
b)財政学の問題とは関係なく、1950年代および1960年代において、
成長論、低開発国の低所得問題が急速に大きくなった。これらに
より、国の経済計画の手段、公共部門の選択のための適切な基準
の探求がなされた。
公共投資基準、望ましい貯蓄率
c)1950年代および1960年代において、それまでに生産されてこなか
ったかあるいは民間部門で生産されていた財・サービスについて
の需要が増大
住宅、都市再開発、医療、教育、高速道路
限られた予算(資源)をいろいろな目的のためにいかに配分する
かの経済基準の探求。効果の分析および代替案・選択基準
また、公共部門の規模が相対的にも絶対的にも増大し、公共部門
を無視した分析は不可能になった。
A政策分析
これらすべての理由から、政策分析の量が急増した。
(3) 最近の公共経済学の展開
経済分析
特定の公共プログラムの研究のための理論的基礎と一般的ルールの
分析を超え、理論分析と計量経済学的推定とが結合されるようにな
ってきている。
学部での講義: 応用経済学特殊講義「公共経済学」
1995年度(夜間主コースで開講)
教科書
谷口 洋志『公共経済学』(創成社 1993)
1997年度(夜間主コースで開講)
教科書
加藤・浜田編『公共経済学の基礎』有斐閣
1999年度(昼間主コースで開講)
教科書
岸本哲也『公共経済学 新版』有斐閣
参考文献
市場の失敗に関する経済理論(公共経済学の基礎理論)
奥野・鈴村『ミクロ経済学 U』(岩波書店 1985),第Y部
ヘンダーソン・クォント『現代経済学』(創文社 1968),第7章
レイヤード・ウォルターズ『ミクロ経済学』(創文社 1985),第1章
マランヴォー:林敏彦訳『ミクロ経済学講義』(創文社 1981),第2-4章
ヴァリアン:佐藤・三野訳『ミクロ経済分析』(勁草書房 1981),第5-7章
川又邦雄『市場機構と経済厚生』(創文社 1991)
公共経済学
野口 悠紀雄『公共政策』(岩波書店 1984)
岸本 哲也『公共経済学 新版』(有斐閣)
柴田・柴田『公共経済学』(東洋経済 1988)
J.E.スティグリッツ著/薮下史郎訳『公共経済学 上・下』(マグロウヒル 1989)
常木 淳『公共経済学』(新世社 1990)
谷口 洋志『公共経済学』(創成社 1993)
加藤。浜田編『公共経済学の基礎』(有斐閣,1996.3.)
井堀利宏『公共経済の理論』有斐閣,1996.12. 定価4223円