民間非営利組織(NPO)
古田俊吉 『非営利企業の役割と課題』(北陸郵政局,1996年10月) 第3章「民間非営利企業」(pp.28-49.)
1 非営利組織 1.1 名称の多様性 民間部門の「非営利組織(団体)」(nonprofit organization、not-for-profit organization)は、「慈善」(charitable)組織、「ボランタリー」(voluntary) 組織、「独立」(independent)組織、「非政府」(non-governmental)組織、「非課 税」(exempt)組織、「フィランソロピー」(philanthropy)組織等、多様な名称 で呼ばれている。「非営利セクター」ないし「第三セクター」とは非営利組織 の集合体を指す。このような多様な呼称は、非営利組織が多様な特徴を有し、 また多様な活動を行っていることを示す。26) そこでまず、用語の意味をみる ことにする。 「非営利」は、前述のように、利益を目的としないという点と、所有者に利 益をもたらすことを第一義的目的としないという点を含むが、一般には、後者 の意味で使われている。したがって、非営利組織は、その利益を、その会員、 指導者および役員に対して配当や資本利得の形で分配せず、それらを一層の目 的遂行に当てる組織であるといえる。 「慈善」という場合は、組織の収入が慈善的寄付に依存していることを意味 している。しかし、現実には、慈善組織の全てが全収入を慈善的寄付に依存し ているとはいえない。 「ボランタリー」は、組織の活動が報酬を期待しない人々の時間と能力の提 供によって行われていることを意味することが多い。ただし、その根底に、共 通の価値観に基づいて何らかの社会的使命を達成するという目的があることも しばしばある。 「独立」という場合は、政府や民間組織から寄付や補助を受けつつも、意思 決定が内部で行われることを意味する。 「非政府」という場合は、政府から独立した組織であることを意味すること の他に、組織の活動がボランタリーな活動に依存していることを意味すること が多い。これらの組織には、ボランタリー組織、市場原理に従って公共サービ スを請け負う「公共サービス請負組織」(public service contractor)、構成員 の利益を代表し、構成員がリーダーを常にチェックする、自立性の高い組織と しての「住民」(peaple's)組織、政府が設立した政策実施の道具として機能す る組織である「政府系」(government-oriented)非政府組織が含まれる。27) 「非課税」という場合は、法人税や所得税、贈与税などが非課税となること を意味している。しかし、全ての組織、活動、収入について非課税となるわけ ではなく、非課税措置を受けるためには一定の要件を満たす必要である。28) 「フィランソロピー」は、時間や資金を公共の目的のために寄贈するという 意味をもっている。ただし、フィランスロピーは、語源がギリシャ語のphilと anthroposの合成語「人間を愛する」であることから分かるように、単に寄付を 意味するのではなく、もっと広範でかつ抽象的なことを意味している。29) 「第三セクター」は、文字通り解釈すれば、公共セクターでも営利目的の民 間セクターでもないセクターである。「第三セクター」という名称を初めて用 いたのはLevitt[47]とEtzioni[19]である。Levittによれば、第三セクターは、 公共セクターでも営利目的の民間セクターでもない「残余の領域である。・・・ これは、慈善組織、福祉協会、労働組合、近隣組織等の多種多様な組織や制 度から成り立っており、活動範囲や特定の目的は異なるが、一般的目標は、私 企業および政府のいずれもが行っていない、またうまく行っていないかあるい はしばしば十分に行っていないことを行うことで共通している。・・・第三セ クターが存在するのは、政府や私企業がが処理できないあるいは処理を 回避するためである。また、他の部門が自らの行動の意図しないマイナスの結 果を適切に処理できない結果であるといえる」。30) また、Etzioniは、市場の伸縮性と効率性、および公共官僚の公平と予測可 能性を結び付けることによって、利潤最大化と官僚制の双方と関連した欠点に 取って代わり得るものとして、第三セクターと名付けた。彼は次のように述べ ている。「民間部門は余りにも利益志向的であり、公共部門は余りにも官僚的 である。社会問題処理の成功、効率、および能力は、完全に公的でもなければ 完全に私的でもないある種の「準公的」(quasi-public)組織にある」。31) さらに、Anheier and Seibel[2]は、最近の第三セクターの特徴として利害 調整的機能とサービス供給機能をあげている。 1.2 非営営利組織の分類基準 名称の多様性と使用上での錯綜ないし混乱は、非営利組織の役割と機能の分 析あるいは公共政策の分析にとって障害になりうる。したがって、何らかの基 準で非営利組織を定義する必要がある。 こうしたことを配慮してSalamon[65]は、非営利組織に共通した固有の特徴と して六つあげている。第1の特徴は、公式に設立されたもの、つまり、一般的 に法律で認められた法人組織であること。個人が非公式にかつ一時的に集まっ たものは、その重要性にかかわらず、非営利組織とはみなされない。契約当事 者になれる点が重要視される。 第2の特徴は、政府から独立した民間のもの、つまり、政府の統制や支配を 受けないこと。政府から援助を受けているか否かには拘らない。また、民間と は、非政府機関を意味する。 第3の特徴は、利益を分配しないこと、つまり、利潤を生み出したとしても それを分配せず、組織本来の活動目的に再投資すること。営利事業を行い利潤 を蓄積する組織についても当てはまる。 第4の特徴は、自主管理できること、つまり、自らの組織を管理する機構を 備えており、外部組織の管理を受けないこと。 第5の特徴は、自発的意志によるもの、つまり、組織の活動において自発的 意志による参加があること。 第6の特徴は、公益のためのもの、つまり、公共の利益に寄与、貢献するも の。 Salamonの非営利組織の分類基準には、どの場合にもそうであるが、恣意性が 含まれていることは否めない。例えば、政府の支配を受けない、あるいは外部 組織の管理を受けないといっても、補助を受けるのに際して何らかの条件がつ く場合もあり得る。また、公共の利益は何かということについての判断にも恣 意性が伴う。しかし、後にみるように、彼の分類基準は非営利組織の標準的分 類の基礎を提供しているといえる。
2 非営利組織の範囲と活動分野 32) これまで非営利組織の特徴や分類基準といったミクロ的側面を考察してきた。 ここでマクロ的視点から、新SNA、改訂SNA、Salamon and Anheierグルー プ方式、による非営利組織の定義と範囲を見ておこう。 まず、新SNAによる非営利組織の定義と範囲である。新SNAにおける非 営利組織は、経済活動別分類では「対家計民間非営利サービス生産者」に、ま た、制度部門別分類では「対家計民間非営利団体」(NPISH:non-profit institution serving households)に分類されている。ここで、経済活動別分 類における「対家計民間非営利サービス生産者」は、利益追求を目的とせずに 社会的、公共的サービスを家計に提供する団体をいう。この団体は、特定の目 的を遂行するために集まった個人の自発的な団体であり、その活動費用は会員 からの会費や個人、企業、政府からの寄付、補助金などによって賄っている。 他方、制度部門別分類での「対家計民間非営利団体」は、主として家計に奉 仕するする民間非営利団体であり、かつ政府機関から資金の供給や支配を受け ない独立した団体とされている。この部門に含まれる財・サービスは、調査・ 研究、教育、医療その他の保健サービス、福祉サービス、レクリエーションお よび関連文化サービス、宗教団体、労働組合および市民団体、その他(活動が 多種多様)に特定されている。「対家計民間非営利団体」は副次的活動におい て商業活動を営む団体を含むことから、「対家計民間非営利サービス生産者」 よりも一般的に範囲が広い。ただし、実際の推計に当たっては、「対家計民間 非営利団体」は産業としての活動は行わないものと想定され、両者の範囲が一 致するものとみなされる。 新SNAにおける問題点は、「対家計民間非営利団体」の範囲を定める際に 非営利性や政府の支配の定義が曖昧であり、各国でその範囲が異なることによ って国際比較が困難な状況を生み出していることである。 次に、改訂SNAである。改訂SNAにおいては、制度部門別分類の勘定で 統一する方式をとっていることにより、新SNAにみられるような経済活動別 分類と制度部門別分類で非営利団体の範囲が異なるという問題は回避されてい る。ここで、非営利団体とは、それを設立、支配、資金供給する単位が、それ を、所得、利益またはその他の金融的利益の源泉とすることを許されないよう なステータスで、財・サービス生産を目的として創設された法的または社会的 実体と定義される。つまり、非営利団体は、家計に対して財・サービスを供給 する民間の団体であって、利益の分配が認められないものといえる。 非営利団体は、「市場生産に従事する非営利団体」(対企業非営利団体を含 む)と「非市場生産に従事する非営利団体」の二つの範疇に区分される。ここ で、前者は、経済的な意味のある価格(生産費用に基づいて価格設定され、か つ価格が供給量と需要量に影響する)で他の経済主体に財・サービスを販売す る非営利団体である。また、後者は、生産する財・サービスの全てないし大部 分を、無償ないし経済的に意味のない価格で供給する非営利団体である。さら に、「非市場生産に従事する非営利団体」は、「政府による支配及び主な資金 の供給を受けている非営利団体」(「一般政府」)と「政府から独立した非営 利団体」(「対家計非営利団体」(NPISH))に区分される。 「対家計非営利団体」は、無償ないし経済的に意味のない価格で家計にサー ビスを供給する非営利団体と定義される。また、これは二つのグループに分類 される。一つは、新SNAの「対家計民間非営利団体」における、学術団体、 政治団体、労働組合、宗教団体、文化、スポーツクラブ等であり、構成員を対 象としたサービスを提供する目的をもった団体である。他の一つは、慈善、救 援、援助など博愛的な目的をもった団体である。新SNAの「対家計民間非営 利団体」に含まれている、医療、教育、社会サービスの多くは「市場生産に従 事する非営利団体」に分類される。 最後に、Salamon and Anheierを中心とするジョンズ・ホプキンス大学のグル ープのアプローチである。Salamon and Anheierグループは、非営利団体(JHCNP) を、「形式性」(formally constituted)、「非政府性」(nongovernmental in basic structure)、「独立性」(self-governing)、「非営利性」(non-profit- distributing)、「非党派性」(nonpartisan)、「ボランタリー性」(voluntary to some meaningful extent)を満たす組織と定義している。この分類は、Salamon [65]による分類とほとんど同一である。異なっているのは、Salamonの「公共 性」の基準が「非党派性」の基準に代替されていることのみである。 Salamon and Anheierグループは、組織の構造面でまず非営利団体を定義し た上で、運営面では11のグループに分類している。それらは、「文化・芸術・ 娯楽、教育・研究」、「健康・医療」、「社会福祉サービス」、「環境保護」、 「コミュニティ開発・住宅・雇用」、「市民運動」、「財団などフィランソロ ピー活動」、「国際的活動」、「業界団体・労働組合」、「その他」の各グル ープである。 Salamon and Anheierグループのアプローチの特徴は、組織の提供する財・サ ービスの性質に関係なく、その構造や運営上の基準に基づいて非営利団体を定 義していることにある。したがって、組織が副次的に商業的活動を行っている か、あるいは主として商業的活動を行っているかに拘らず、構造面で六つの基 準を満たしていれば非営利団体とみなされる。また、対家計サービス、対企業 サービスという区分もなされない。非営利団体がこのように広範囲に捉えられ るのは、国際比較を行うために、多種多様な組織の構造と活動の最大公約数を とる必要があったことによるものと思われる。 以上の、新SNAと改訂SNAおよびSalamon and Anheierグループの定義に 基づいて非営利セクターの範囲を示したのが表9である。それぞれの定義によ って非営利セクターの範囲が異なっていることが分かる。国際的な比較分析の ためにも、共通した非営利組織の定義が必要であといえよう。その際、Salamon and Anheierグループの定義は一つの標準になると予想される。 表9 民間非営利団体の範囲 (資料) 大住[91] 85頁、図表9。 Salamon and Anheierグループは、上のような分類基準に基づいて非営利セ クターの国際比較分析を行っているが、その結果は表10に要約されている。 まず、非営利セクターの規模については、GDP比でみても雇用者数でみても、 アメリカの非営利セクターは他の諸国より圧倒的に大きい。日本の非営利セク ターの規模は、アメリカのそれに比較してGDP比では約1/2、雇用者では 約1/5にとどまっている。ただし、ドイツ、フランスとの比較では、GDP 比でみた規模ではそれほど遜色ないといえる。 次に、事業支出の活動分野別構成では、7カ国平均でみると、教育・研究の ウエイトが最も大きく、次いで健康・医療、社会福祉サービス、文化・芸術・ 娯楽の順になっている。日本については、教育・研究のウエイトが最も大きく 39.5%、次いで健康・医療27.7%、社会福祉サービス13.7%となっており、こ れら3分野で81%を占めている。文化・芸術・娯楽のウエイトは業界団体・労 働組合のウエイトより小さい。またアメリカとイタリアも、各分野のウエイト は異なるが、日本と同じウエイトのパターンを示している。ちなみに、アメリ カでは健康・医療が53.4%と過半を占め、次いで教育・研究23.1%、社会福祉 サービス10.1%となっており、これら3分野で87%を占めている。また、文化・ 芸術・娯楽のウエイトが業界団体・労働組合のそれより小さいことも日本と同 じである。その他の特徴としては、イギリスと日本では教育・研究のウエイト が、アメリカとドイツで健康・医療が、そしてイギリスとフランスで文化・芸 術・娯楽のウエイトが、それぞれ相対的に高いことがあげられる。 最後に、収入源の構成においては、政府補助ウエイトが相対的に大きいのは ドイツとフランス、逆に事業・会費収入のウエイトが高いのは日本、アメリカ、 イタリアである。イギリスは民間寄付のウエイトが7カ国で最も高く、ある意 味では収入構成のバランスがとれているともいえよう。日本の特徴としては、 他の6カ国と比較して、事業・会費収入への依存度が際立って高いこと、民間 寄付の占めるウエイトが際立って小さいことがあげられる。 表10 民間非営利セクターの国際比較 (資料) 山内直人[114] 25ページ。 (Source) Salamon,L.M. and H.K.Anheier, The Emerging Nonprofit Sector: An Overview, Manchester University Press,1996: Appendix D, Appendix E.
3 公益法人 日本の公益法人は、制度面からみると、民法および特別法を根拠としている。 このうち、一般に「公益法人」と呼ばれる民間団体は、民法34条「祭祀、宗教、 慈善、学術、技芸其他公益に関する社団又は財団にして営利を目的とせざるも のは主務官庁の許可を得て之れを法人となすことを得」の規定に基づいて設立 された社団と財団をいう。また、公益法人を広義に捉える場合には、社団と財 団の他に、私立学校法、社会福祉事業法、宗教法人法のような特別法に基づい て設立された団体も含まれる。33) 公益法人数および特別法に基づくその他の公益法人数は、表11-1、表11-2 に示されている。公益法人数は、平成元年10月現在で23,429法人あり、その内 訳は社団6,703法人、財団16,726法人となっている。中央省庁所管公益法人で みると、文部省所管の公益法人が1,585法人と最も多く、次いで通産省所管824 法人、運輸省所管814法人、大蔵省所管685法人、等となっている。文部省所管 の公益法人が多いのは、「教育・学術・文化」を事業目的とする公益法人の割 合が大きいことと対応している。 また、データは少し古いが、特別法に基づくその他の公益法人数は、昭和58 年度において200,133法人あり、そ内訳は社会福祉法人10,974法人、学校法人 6,136法人、宗教法人183,023法人となっている。これから分かるように、特別 法に基づくその他の公益法人においては、宗教法人が91%強とほとんどを占め、 社会福祉法人と学校法人は9%弱を占めるにすぎない。 表11-1 公益法人数 (資料) 笹川平和財団編[98] 34頁、表4。 表11-2 特別法に基づくその他の公益法人数 (資料) 総務庁行政監察局編[98] 3頁、参考表。 公益法人は多伎にわたる活動を行っているが、それらを森泉[112]にしたがっ て分類すれば、「典型的公益法人」、「特別法型公益法人」、「親睦団体型」、 「行政補完型公益法人」、「業者団体型公益法人」の五つに類型化できる。ま ず、典型的公益法人は、純粋に公益を目的として活動している公益法人であり、 育英、慈善、学術研究を目的とした法人がこれに該当する。次に、特別法型公 益法人は、先に述べた特別法に基づいた法人であり、社会福祉、学校、宗教を 目的とした法人がこれに該当する。親睦団体型公益法人は、構成員の親睦や相 互扶助、福利厚生を目的とした法人であり、同窓会、同好会、後援会などがこ れに含まれる。この型の公益法人は、積極的に公益に貢献することを目的とす るわけでもなく営利を追求するわけでもないことから、中間型公益法人とも呼 ばれる。また、行政補完型公益法人は、政府の行政サービスを代行ないし補完 することを目的とした法人であり、各種検査協会などがそれに該当する。最後 に、業者団体型公益法人は、同業者の技術向上や相互扶助、自主規制、情報提 供などを目的とした法人であり、鉄鋼連盟、タイル業協会、専門店協会など多 種多様な団体が含まれる。34) ところで、公益法人については「公益」の概念が問題になる。民法34の規定 では公益の概念が明確ではないため、主務官庁の許可基準に恣意性が伴い統一 性を欠くきらいがあった。そのため、昭和47年に「公益法人設立許可審査基準 等に関する申し合せ」(公益法人監督事務連絡協議会)が作成され、公益の概 念の明確化と許可基準の統一化が図られた。その申し合せでは、「公益法人は、 積極的に不特定多数の者の利益の実現を目的とするものでなければならない」 と定めている。35) したがって、現在では、公益とは一般に「不特定多数の人 々の利益」と解釈されるといえよう。ただし、公益の概念がこのように解釈さ れた結果、非営利組織であっても公益を主目的としていないと判断される組織 は、公益法人として許可されない状況が生じていることも否めない。36) 日本の公益法人制度は西欧諸国と対比して、許可主義にみられるように政府 主導の傾向が非常に強いが、その理由としては、宗教的伝統から社会連帯意識 に根差した相互扶助の基盤が脆弱なこと、税制上の優遇措置が十分でないこと、 公益法人の認められる設立目的が限定的であったこと、等があげられる。37)
4 非営利企業 これまで、非営利組織の特徴や活動等について述べてきたが、非営利組織と 非営利企業の区別はしていなかった。ここでその区別を明確にしておく必要が あろう。 既に述べたように、企業とは、財・サービスを生産ないし供給し、費用をカ バーするか否かによらず、それらを消費者や生産者にある価格で販売する一定 の自立性をもった実体であると特徴付けられる。非営利企業は、したがって、 非営利組織のうち贈与や助成を主たる目的としない組織、言い替えると、財・ サービスを有償で提供している組織を指す。38) 民間営利企業と異なる点は、 非営利企業が非営利組織でもあることから、設立資金を贈与によって賄うこと、 つまり、収益の分け前を約束した形で資本を獲得する権限がないこと、純所得 を現金配当することが認められていないこと、収入のために企業を売却あるい は流動化することができないことである。 非営利企業には、大学、病院、美術館、博物館、交響楽団などが含まれると いえる。ただし、例えばボランタリー組織の場合、提供するサービス自体は有 償であるが、実際にサービス生み出す人は無償のボランティアであることもあ る。したがって、個々の非営利組織の活動内容を実際に観察しなければ企業と して分類できるか否かを決定することはできない。 本稿では、非営利組織と非営利企業との境界を厳密に定義することは目的と していないので、大ざっぱにみて企業活動を行っているとみなせる非営利組織 を非営利企業と呼ぶ。以下では、このような仕方で非営利企業に分類された組 織の行動モデルや存在根拠、効率性といった点を検討する。
5 非営利企業の諸理論 5.1 非営利企業の行動モデル 非営利企業が何を目的として行動するか、すなわち非営利企業の目的関数は 何かについては論者によって異なり合意は得られていない。一方の極には、予 算制約の下でサービスの数量と品質の最大化を仮定する論者がおり、もう一方 の極には、見せかけの利潤追及行動をとると仮定する論者もいる。後者の仮定 の下では、非営利企業は利潤最大化行動をとるが、利潤の非分配の制約から、 分配の形態を修正し意思決定者に現物の形態で配当を行なう。またそれらの中 間には、予算制約とサービスの品質の制約の下での産出量最大化行動を仮定す る論者、意思決定者の純所得最大化行動を仮定する論者がいる。数量と品質の 最大化行動の仮定はNewhouse[54]に代表され、職員の所得の最大化行動の仮定 はPauly and Redisch[57]に代表される。このように非営利企業の行動様式に関 してコンセンサスが得られない理由は、それらの行動の多様性と行動目的の観 察の困難さから、経験的事実に合いそうなモデルを区別できないことにある。39) ただし、目的関数の仮定の仕方で非営利企業の評価が異なってくることに注意 が必要である。 ①サービスの数量と品質の最大化 まず、Newhouse[54]のサービスの数量と品質の最大化モデルを考察しよう。 非営利企業のモデル化と分析は、彼によって始まったといえる。彼は、病院の ケースを取り上げ、病院はサービスの数量と品質の最大化を目的として運営さ れると想定する。まず、数量の最大化が目的とされる理由は、患者側からすれ ば病院から受けるサービスが多ければ多いほど、病気が快方に向かう、ないし より安心感が得られることから、状態が改善すると想定できることである。ま た、病院側からすれば、病院は社会目的のために存在し、その故に租税上の特 権を受けられるとすると、意思決定者はサービスの数量に関心をもつ。次に、 サービスの品質の最大化が目的とされる理由は、管理者が事業から得られる利 潤によって評価される訳ではないから、所得や昇進に影響する病院の評判に関 心をもつと想定できることである。医師は、専門的な立場から医療の品質に強 い関心をもつが、これは同時に良いスタッフを補充することを容易にする。こ うしたことから、病院の行動目的は、赤字が一定額以下という予算制約の下で サービスの数量と品質を最大化することにあると想定される。 Newhouseの分析は数学的モデル分析ではないが、その特徴を失わない範囲で 数学的に定式化しよう。サービスの数量をQ1、品質をQ2、サービスの価格を p、費用関数を、 C=C(Q1,Q2)、 意思決定者の効用関数を、 U=U(Q1,Q2) とする。ただし、Ci=∂C/∂Qi>0、Ui=∂U/∂Qi>0、i=1,2、と仮 定する。また、サービスの品質を上げても病院の収入には反映されないものと 想定する。40) これより、許容される予算赤字をBとすると予算制約は、 C(Q1,Q2)-pQ1≦B で表わされる。ここで、Bは外生的に決定され、外部から贈与がなされる場合 はB>0、贈与がない場合にはB=0である。なお、予算制約の定式化に当たっ ては費用関数および価格を特定化する必要であるが、分析の簡単のため、ここ では予算制約が効いているものと想定する。 これらより、意思決定者の最適化問題は、予算制約の下での効用の最大化問 題として定式化される。最適の1階条件は、ラグランジュ乗数をλとして、 U1/λ+p=C1 U2/λ=C2 C(Q1,Q2)-pQ1=B で与えられる。これらの条件は、サービスの数量については、限界費用が価格 を上回るところで決定され、また、サービスの品質については、品質の限界効 用と収入の限界効用との比が品質の限界費用に等しいところで決定されること を意味している。これは、数量と品質の限界的増加が意思決定者の効用を増加 させることに起因する。また、これらの条件は、意思決定者が費用最小化行動 をとることを示唆するが、意思決定者の最適選択が社会的に最適な結果か否か は示さない。 ところで、Newhouseは意思決定者にとっての最適な数量と品質は社会的には 過大であるということを主張しているが、このことを理論的に証明している訳 ではない。このモデルとの関係でそれを説明しておこう。このモデルによって 彼の主張する結果を得ようとするならば、消費者の余剰を導入しその最大条件 から限界費用が価格を上回ることを示す必要がある。しかし、モデルに消費者 の余剰を導入するとなると、今度は意思決定者の選好を除外する必要が生じる。 彼の主張が理論から直接に証明されていない理由はこの点にある。 このように、Newhouseのモデルは非営利企業が供給するサービスの数量と品 質が社会的に過大になることを直接証明するものではないが、以下の諸点の示 唆は重要である。第1に、非営利企業では、営利企業が供給するような質の低 い(価格の低い)サービスは提供されにくいことである。第2に、営利企業は 利潤機会があれば参入するのに対して、非営利の場合は必ずしも参入するとは 限らないことである。第3に、フィランスロピーによる病院への援助は、非営 利病院の予算制約を弱め非効率の要因ともなりうるということである。41) ②サービスの数量の最大化 Goodspeed and Kenyon[24]は、利潤の非分配の制約に対応して、非営利企業 は利潤を全て財・サービス生産に振り向け、それらの数量を最大化するものと 想定している。42) 彼らは、モデル分析を行っているわけではないが、ここで彼らの論点をモデ ル化して分析しよう。生産物をQ、生産物の価格をp、生産要素をx1,x2、 生産関数を、 Q=Q(x1,x2)、 費用関数を、 C=C(x1,x2) とする。これより、非営利組織の目的は、 収支均衡の予算制約 pQ=C(x1,x2) の下でQを最大化することとして表される。この問題の1階条件は、 Q1/Q2=C1/C2 および p=C/Q で得られる。ただし、Qi=∂Q/∂xi、Ci=∂C/∂xi、i=1,2である。 前者の条件は、限界生産物の比が限界費用の比に等しいことであり、このこと は意思決定者が費用最小化行動をとることを示す。また後者の条件は、価格が 平均費用に等しいことを示す。 以上のことから、生産量最大化行動をとる非営利企業においては、意思決定 者は費用最小化行動をとるが、その結果は社会的な効率の条件を満たす保証は ないといえる。43) ③意思決定者の純所得の最大化 次に、Pauly and Redisch[57]のモデルを検討しよう。彼らは、Newhouse[54] の病院の行動モデルにおいて誰が意思決定者なのか明示的に示されていないこ とに着目し、利組織をコントロールしている人々の経済的動機という側面から 非営利企業の行動を明らかにしようとしている。 彼らは、非営利の病院における意思決定者は医師であって純所得の最大化行 動をとる仮定する。医師を病院の意思決定者とする理由は、もし医師が病院に 雇われているだけで意思決定に参加しないとすると、理事会や管理者が病院の 意思決定者であり、彼らはサービスの数量あるいは品質の最大化を目的とする と考えられるからである。この場合には、病院の行動モデルはNewhouseのそれ に帰着してしまい、彼のモデルに代り得る新しい行動モデルを構築できないこ とになる。 いま、加療サービスの生産量をQ、物的資本をK、医師以外の労働をL、医 師(医療スタッフ)の労働をMとする。また、生産関数を、 Q=Q(K,L,M) 患者の加療サービスに対する需要関数を、 Q=Q(pT)、 とする。ただし、pTは、患者が医師のサービスとそれ以外のサービスに対して 支払う結合価格である。またpTは病院の収支が均衡する水準に決定されるもの とする。さらに、医療以外の労働と資本にかかる費用をちょうどカバーするた めに病院が徴収する価格をphとすると、 phQ=wL+rK となる。ここで、wは医師以外の労働の賃金率、rは資本コストである。 医師の純所得はpTQ-phQ=pTQ-wL-rKで与えられるから、医師の 最適化問題は、生産関数および需要関数の制約の下で純利潤を最大化する問題 となる。医師の数が固定されているケースでは、最適の1階条件は、 w=pT・QL+pTQ・QL・Q r=pT・QK+pTQ・QK・Q で得られる。ただし、QL=∂Q/∂L、QK=∂Q/∂K、pTQ=∂pT/∂Q である。これより、医師以外の労働と資本の雇用はそれぞれの限界要素費用が それぞれの限界収入に等しくなるように決定される。つまり医師は、医師の労 働の投入量と生産するサービスの供給価格を所与とすると、費用が最小になる ように労働と資本の量を選択することが分かる。 また、医師の数が可変の場合には、医師は一人当りの純所得が最大になる ように行動すると想定できる。この場合、医師一人当りの純所得は、 YM=(pTQ-wL-rK)/M で与えられるから、1階条件は、 w=pT・QL+pTQ・QL・Q r=pT・QK+pTQ・QK・Q YM=pT・QM+pTQ・QM・Q となる。ただし、QM=∂Q/∂Mである。 ただし、このケースは、病院の意思決定者(理事会や管理者)が医師労働と 医師以外の労働および資本を用い、またこれらを結合した最終生産物(加療サ ービス)を患者に供給し、利潤を最大化する行動をとるケースとも解釈できる。 病院の行動がこのようなものだとすると、上の1階条件、つまり非営利病院の 医師の純所得最大化の条件は、営利目的の病院の利潤最大化の条件と一致する。 異なる点は、利潤の受取者が医師か医師以外の者かということのみである。こ の場合には、効率性の問題というよりもむしろ分配の公平性の問題が生じる。 ④非営利活動と商業的活動の兼業 Schiff and Weisbrod[67]は、非営利組織が非営利生産物と商業的生産物の双 方を生産するケースを想定し、政府の援助や私的な寄付がこれらの生産物の数 量に対して、つまり非営利活動と商業的活動に対して、どのような効果をもつ のかを分析している。 管理者は、非営利生産物から正の効用を、商業的生産物から負の効用を得る ものとし、予算制約の下で効用を最大化する行動をとると仮定される。企業の 管理者に関する仮定は、管理者が非営利活動はしたいが商業活動はしたくない ことを意味する。また、商業的生産物は外生的な市場価格で販売され、他方、 非営利生産物は寄付あるいは商業活動による利潤からの内部補助で賄われると 仮定される。44) さらに、寄付については、企業は支出の一部を寄付要請活動 に振り向けることが認められるものと仮定される。 管理者の効用関数は、非営利生産物Q1と、商業的生産物Q2の関数として、 U=U(Q1,Q2) で表されるものとする。ただし、仮定からU1=∂U/∂Q1>0、 U2=∂U/∂Q2<0である。寄付要請支出をEとし、さらに、外部からの寄付 Dの関数は、 D=D(Q1,Q2,E) で、費用関数は、 C=C(Q1,Q2) で表されるものとする。これから、予算の収支均衡制約は、 D(Q1,Q2,E)+pQ2=C(Q1,Q2)+E で与えられる。だだし、D1=∂D/∂Q1≧0、∂D/∂Q2≦0、D3=∂D/ ∂E≧0と想定する。 管理者の最適化問題の1階条件は、ラクランジュ乗数をλとして、 U1/λ+D1=C1 U2/λ+p+D2=C2 D3=1 で得られる。 1階条件は以下のことを意味している。第1番目の式は、非営利企業にとっ ての非営利生産物の最適生産は、利潤最大の場合の生産量よりも大きいこと、 第2番目の式は、非営利企業が生産する商業的財・サービスの最適生産量は、 利潤最大化企業の場合のそれよりも下回ること、最後の式は、寄付要請の支出 は寄付収入が最大になるように設定されることをそれぞれ示す。 モデルの諸仮定および1階条件から、私的な寄付や政府の補助が増大し予算 に余裕が生じると非営利財の生産が増加するとともに営利の生産が減少するこ と、逆に、政府を含む外部からの寄付ないし補助が削減されると非営利企業の 商業活動が増加することがわかる。ただし、商業的な財の価格が上昇した場合 では、非営利生産が増加すると予想されるが、商業的生産が増加するか否かは はっきりしない。これは、価格の上昇は商業的生産を減少させる効果と、非営 利生産の資金調達にとって営利生産がより有利になる効果とが同時に働くから である。 博物館や美術館あるいは病院は施設内で売店や食堂を経営しているケースが 多い。このように、現実に多くの非営利企業の活動が非営利活動と商業的活動 の兼業で行われていることを考慮すると、Schiff and Weisbrodの兼業モデルは、 非営利企業の行動分析や、非課税措置や補助を含む公共政策の分析にとって、 非常に重要な視点を与えているといえる。 5.2 非営利企業の効率性 これまで、非営利企業に関する種々の行動モデルを検討してきた。それらの 行動モデルは、非営利企業がどのように行動するのか、そしてそれぞれの行動 がどのような経済的帰結をもたらすのか明らかにするが、非営利企業が何故存 在するのか、また、どのような機能を果たすのかといった点まで含めて明らか にするものではない。 そこで、以下では、非営利組織が何故存在するのか、またその規模を決定す る要因は何かといった点を説明する諸理論を検討する。 ①公共財モデル Weisbrod[80]のモデルは、公共財の供給に関わって生じる市場の失敗と関連 して非営利企業の存在理由と効率性を論証することを目的としている。 周知のように、公共財の効率的供給の条件は、 ΣMRS=MRT で与えられる。この式は、限界代替率の総和が限界変形率に等しいこと、換言 すると、限界評価の総和が限界費用に等しくなければならないことを示す。 いま、社会がN人の構成員からなるとすると、効率的供給の条件は、 ΣMRS/N=MRT/N と書き換えられる。この式は、構成員一人当りの平均的限界代替率が一人当た りの平均的限界変形率に等しいこと、換言すると、一人当りの平均的限界評価 が一人当りの平均的限界費用に等しくなければならないことを示す。 公共財供給の意思決定が投票の多数決でなされ、投票においては中位投票者 がキャスティング・ボートを握るものとすると、公共財の効率的供給の条件と 多数決の結果が整合するためには、平均的投票者と中位投票者が一致する必要 がある。しかし、これを満足するのは、投票者の分布が左右対称の場合に限ら れる。もし、選好の分布が非対称であるならば、多数決で決まる資源配分は非 効率的とならざるを得ない。構成員の間の需要の異質性が大きく、また需要の 偏りが大きいならば、それらの同質性が高い場合よりも上の条件を満たす可能 性は小さくなる。 Weisbrodの非営利組織のモデルは、この問題を出発点にしている。つまり、 政治的プロセスで決まる公共財の供給に満足できるのは、前述のように、中位 の投票者である。自らの需要が中位の需要より乖離する構成員は不満をもつ。 また、その不満の程度は、中位の需要からの偏差が大きくなるにつれて増大す る。 政治的意思決定に不満をもつ人々が自らの不満を解消する方途は、他の行政 区域への移動、より低位の政府を形成、民間(営利)市場での代替財の購入、 ボランタリー(非営利)組織への依拠などであろう。 最初に、他の行政区域への移住は、Tiebout[77]の足による投票とのアナロジ ーで考察できる。足による投票が可能であるためには、選択対象となる租税と 支出の組み合わせが多様であること、他の政府への移動コストが小さいこと、 雇用機会が問題にならないこと、転出・転入の制限がないこと等の条件が満た されなくてはならない。これらの条件が満たされ移動が生じても、異質の構成 員が集まって政府を構成する限り、不満をもつ構成員が常に存在する。残され た途は、政府サービスが過大と感じる構成員の場合は、より少ないサービスを 目指して政府に圧力をかけるであろう。一方、政府サービスが過小と思う構成 員の場合は、より多くのサービスを目指して政府に圧力をかけるか、政府サー ビスとは別個に共同でサービスを購入するか、あるいは民間財で代替するかで あろう。 次に、より低位の政府の形成は、政府サービスとは別個に共同でサービスを 購入することに対応している。こうすることである程度は不満の緩和につなが るが、サービスが公共財の性格を有している場合には、フリーライダー問題が つきまとう。また、不満をもつ構成員の需要が異質ならば、ここでも多数決で 決まる結果に対して不満をもつ個人が存在する。 第3に、民間財での代替は、民間市場に代替財が存在し、民間財が政府サ ービスの完全代替財であり、そして各個人で購入可能ならば、個々人は自らの 選好に最も合致するように購入できることもあり、政府サービスに対する不満 を解消する有効な方法である。問題は、したがって、民間市場に代替財が存在 しそれらが政府サービスの完全代替財であるか、各個人で購入可能かである。 周知のように、警察サービスに対して民間警備保障サービス、消防サービスに 対してスプリンクラー・システム、公立の学校教育に対して私立の学校教育と いうように、民間市場には政府サービスの代替財が多く存在する。しかし、そ れらの代替財は政府サービスの完全な代替財とはいえない、例えば、民間の警 備保障サービスは警察サービスを前提としてはじめて成り立つサービスであり、 スプリンクラー・システムは個人住宅等の小規模の火災に対しては有効である が大規模な火災に対しては役に立たない。また、価格の面で、全ての個人が民 間の警備保障サービスやスプリンクラー・システムを購入することは不可能で ある。さらに、政府の財・サービスと民間の財・サービスの組み合わせによっ て、政府の財・サービスのみの場合よりは個人の不満は減少するが、それによ って社会的最適が達成される保証はない。何故なら、前述のように、政府と民 間市場の財・サービスの組み合わせに対しても、需要が充足されないあるいは 需要が過大に充足された諸個人が存在し、彼らは依然として不満を抱いたまま であるからである。 以上の諸点から、第4のボランタリー(非営利)組織が、政府サービスでも 民間サービスでも充足されない欲求を満たすための、残された一つの方法ない し一つの組織的メカニズムであるとWeisbrodは強調している。この場合、非営 利組織は、政府以外の公共財供給者として公的供給を補完する機能を果たすと 同時に、公共財の代替財を供給する民間部門の代用としての役割を果たす。た だし、非営利組織が公共財を供給する場合は、フリーライダー行動の誘因があ り資金面での困難に直面する可能性が大きいといった問題や、組織構成員の間 の需要の多様性が大きいならば不満の解消は困難といった問題を内包する。し かし、次善の解の達成という観点からは、非営利組織の形成が必要でありかつ 重要である。 これまでの議論から、非営利組織の相対的規模は需要の異質性の関数と想定 できる。構成員の需要の間の異質性が大きければ、政府サービスに対する不満 が大きく、したがって非営利セクターの相対的規模は大きくなる傾向があろう。 逆に異質性が小さければ、政府サービスに対する不満は相対的に小さく、非営 利セクターの相対的規模も小さいという傾向があろう。 Weisbrodの公共財論に基づく非営利組織の理論は、以上のように、非営利組 織が創設される要因、三つのセクターが併存する要因、非営利セクターの相対 的規模の決定要因を説明する有用な理論といえよう。 ②非対称情報 Weisbrodの非営利組織の理論は、集合消費財を対象にしたアプローチであり、 準公共財や民間財のケースについては理論の適用に限界がある。この限界を越 える試みの一つが、Hansmann[27]の非対称情報のアプローチを用いた「契約の 失敗」(contract failure)モデルである。 Hansmannは、生産物が購入され消費される環境ないし生産物自身の性質によ り、消費者が約束されたあるいは供給された財を正確に評価できない場合を取 り上げる。いま、消費者が生産物の品質を評価する十分な情報を持っていない とすると、消費者はそれを購入する場合、供給者である企業を信用せざるを得 ない。しかし、生産者である利潤最大化行動をとる企業は、利益志向から生産 物の品質を落とし消費者を欺くことがありうる。こうした非対称情報という状 況の下では、消費者は最良の取引を行うことができなくなる。これが契約の失 敗と呼ばれる市場の失敗の一つのケースである。 契約の失敗は、営利を目的とした経済活動に限らず営利を目的としない経済 活動についも同様に生じる可能性がある。しかし、ここでもし利潤の分配が許 されず、さらにその利潤を組織の目的遂行のためのみに支出することが義務付 けられるならば、消費者を欺くという誘因は営利企業よりも小さくなることが 期待できる。換言すると、利潤の非分配制約は消費者に対して追加的な保護を 与えるものと考えられる。非分配制約によって企業の消費者を騙す行為が減少 すれば、それに応じて消費者の厚生損失は減少することになる。消費者が営利 企業よりも非営利企業を信用するのはこのためである。 ただし、利潤の非分配制約は、組織の意思決定者の裁量によって利潤が分配 されないことを保証するが、それによって組織が効率的に活動することを保証 するものではない。しかし、現実に多くの非営利企業が存在している背景には 契約の失敗があり、非営利企業はこの失敗に対処するために設立されたといえ る。こうしたことからHansmannは、非営利企業は非対象情報から生じる契約の 失敗に対応するために設立され、消費者の厚生損失を緩和する重要な役割を担 っていると主張している。45) Hansmannの議論を補完するのがEasley and O'hara[16]、Krashinsky[42]であ る。Easley and O'haraは、契約理論を用いた分析によって、非営利企業が特定 の財・サービスの供給については最適な組織であることを示している。彼らは、 社会と企業の経営者が非協力ゲームを行なうと想定する。彼らの得た結果は、 非営利企業は生産プロセスに非対称情報が存在する場合にのみ最適であるとい うことである。この結論の重要な点は、非対称情報が存在する場合、単に非営 利企業が営利企業より望ましいということを示唆するのではなく、社会的な最 適生産のために非営利企業が必要なのだということを示唆している点である。 さらにKrashinskiは、不確実性と生産物の品質の観察が困難なケースについて、 取引費用の理論を用いて非営利企業の発生を説明している。 Ben-Ner[4]は、Weisbrod[80]とHansmann[27]の理論をさらに拡張している。 彼の理論の出発点には、消費者は消費者余剰を最大化する行動をとり、営利企 業は利潤最大化行動をとることから、両者の間に対立が生じるが、統合されて 一体になった場合は結合余剰(消費者余剰と利潤の総和)を最大化する行動を とるであろうと予想されることがある。 消費者の立場からは、消費者が企業を統制する目的としては、消費者余剰の 最大化と結合余剰の最大化がありうる。後者に対応する組織は消費者協同組合 であるが、前者の方が消費者にとっては好ましい。46) そこでBen-Nerは、消費 者の観点から、ゼロ利潤制約の下で消費者余剰を最大化する非営利企業に焦点 を当てている。この場合、非営利企業は、消費者による企業の直接的統制が消 費者の厚生を高める場合に設立されることになる。これには、三つのタイプが あり得る。営利企業が消費者よりも生産物の特性に関してより良い情報をもつ 場合、営利企業が品質やその他の生産物の特性を不適切に供給する場合、そし て営利企業が排除可能な公共財について高い需要をもつ消費者を価格によって ではなく品質によって割当する場合、である。47) ③需要と供給の不確実性 需要の不確実性に基づいて、非営利企業の存在と、民間市場における非営利 企業と営利企業の併存を説明する理論の代表的なものはHoltmann[34]のモデル である。48) いま、需要が確率的で、企業の管理者は、期待総支払容認価格と総費用との 差額、つまり期待消費者余剰と期待利潤の総和で表される社会的余剰を、価格 と生産能力に関して最大化する行動をとると仮定する。さらに、超過需要が生 じた際は、最も高い支払容認価格を提示する消費者から順に生産物を提供する ものとする。最大化の1階条件から次のことがいえる。第1点は、最適価格は 売上と結びついた可変費用に等しいが、価格は資本費用をまかなうものではな いということである。第2点は、企業管理者の限界期待便益が限界期待費用に 等しいところまで生産能力が拡大されるべきであるということである。これら のことから、需要が確率的なケースでは、非営利企業が効率基準から必要とさ れることがわかる。 しかし、需要が確率的な時には、超過需要の存在が見込まれ、利潤の機会を 求めて営利企業が参入することが予想される。ただし、営利企業は資本費用も カバーするために、非営利企業よりは高い価格を設定する。これから、確率的 需要に基づく産業で非営利企業と営利企業が併存するケースは二つに分けられ る。一つは、消費者がサービスの利用可能性に価値を付与するケースである。 このケースでは、サービスの利用可能性に対する超過需要が存在するから、営 利企業が参入し、その需要を充足するための市場を提供する可能性がある。二 つ目は、固定費用が小さいか需要の価格弾力性が大きいケースである。固定費 用が小さいか需要の価格弾力性が大きい場合には、社会的余剰の最大化と利潤 最大化との差異はほとんどなく、営利企業がサービスを提供しうる可能性が大 きい。 次に、供給側に品質の面の不確実性がある場合を分析するのがHoltmann and Ullmann[35]のモデルである。彼らは、ナーシングホームを例にとり、サービス の不確実性が非営利ナーシングホームと営利ナーシングホームの選択に与える 影響を分析している。いま、非営利ホームの介護をQ1、営利ホームの介護をQ2 とする。ここで、非営利ホームの介護の数量と品質は確実で既知、営利ナーシ ングホームの介護の数量は既知であるが品質は不確実と想定する。さらに、Q2 は不確定単位の介護の品質QL(=θQ2)を生み出す、θは確率変数でその期 待値はE[θ]=1であると仮定する。 消費者は、期待効用、 E[U(Q1,QL)] を予算制約、 p1Q1+p2Q2≦Y の下で最大化する行動をとるものとする。だだし、p1、p2はQ1、Q2それぞ れの価格、Yは所得である。 最適の1階条件、ラクランジュ乗数をλとして、 E[∂U/∂Q1]-λp1≦0, {E[∂U/∂Q1]-λp1}Q1=0 E[θ(∂U/∂QL)]-λp2≦0, {E[θ(∂U/∂QL)]-λp2}Q2=0 Y-p1Q1-p2Q2≧0 (Y-p1Q1-p2Q2)λ=0 となる。また、1階条件より、 ケース1(Q1>0,Q2>0)では、 E[(∂U/∂Q1)]/E[θ(∂U/∂QL)]=p1/p2 ケース2(Q1=0,Q2>0)では、 E[(∂U/∂Q1)]/E[θ(∂U/∂QL)]<p1/p2 ケース3(Q1>0,Q2=0)では、 E[(∂U/∂Q1)]/E[θ(∂U/∂QL)]>p1/p2 を得る。49) これらより、個人の効用関数がQ1、Q2、θに関して凹ならば、 リスクが大きいほど非営利のナーシングホームを選択することがわかる。 ④実証分析 非営利組織ないし非営利企業に関してはこれまで多くのまた多伎にわたる実 証分析が行われているが、ここでは、上で分析した事柄と密接に関連する実証 分析に絞ることにする。 Steinberg[74]は、非営利組織のサービス生産量および予算規模と募金活動と の関係を実証分析している。募金の限界生産物がサービス生産量と予算規模に 与える影響の大きさから、非営利組織が生産量最大化行動をとっているのか予 算規模最大化行動をとっているのかが判断される。彼らは、実証分析の結果か ら、福祉、教育、芸術関係の非営利企業は生産量最大化行動をとるという仮設 が支持され、また、保健関係の非営利企業では予算最大化行動をとるという仮 説が支持されるが、研究関係の非営利企業では結論的な結果は得られなかった としている。 Weisbrod and Dominguez[81]は、非営利企業は市場で公共財を生産している とみなし、それを検証するために、非営利企業の需要が価格と情報の関数であ ると想定する。これは、消費者が民間財市場でこれらの変数に反応するように、 贈与者が非営利市場でこれらの変数に反応するのか否かをみるためである。こ こで、価格はサービスの生産のために用いられる寄付の額で、品質は近似的に 非営利企業の年齢で、広告(資金調達)はそれへの支出で測定されるものとし ている。 保健、教育、福祉、文化関係の非営利企業を対象に実証分析した結果、贈与 者からの寄付はサービス生産に用いられる寄付の割合および質(非営利企業の 年齢)と正の関係をもつこと、また、広告は寄付と正の関係にあることが確か められている。 Weisbrod and Schlesinger[82]は、民間非営利組織および政府のナーシング ホームが営利のそれよりも信頼できるものか否かを実証分析している。非対称 情報は信頼を需要する要因であり、全ての患者にとって公共財の性格をもつと 想定できよう。彼らは、規則違反は信頼に足る程度を、患者の不満の数は消費 者の信頼の程度をそれぞれ示すと考え、規則違反の数および患者の不満の数と 所有形態との関係を回帰分析している。分析から、規則違反については営利組 織の方が少なく、患者の不満については非営利組織の方が少ないとの結果が得 られている。これらのことから、彼らは、消費者は非営利組織により大きな信 頼を寄せているといえが、非営利組織の方が実際に信頼できるサービスを提供 しているかといえばそうではないと解釈している。 Holtmann and Ullmann[35]は、ナーシングホームの選択に関して実証分析を 行っている。それによると、非営利のナーシングホームと営利のナーシングホ ームを選択するときに、配偶者のいない個人や年金生活者、最も衰弱している 個人、施設での長期療養者といった、療養上できるだけ小さなリスクを望む人 々は、非営利のホームを選ぶ傾向があり、他方、配偶者といった療養サービス の品質をある程度監視できる者をもつ個人や自分で支払い可能な個人は営利の ホームを選ぶ傾向があるという結果が得られている。また、月々の料金につい ては非営利ホームの方が高いという結果が得られている。これらのことから、 危険、不確実性、サービスの監視が営利と非営利の選択に影響を与るという理 論分析の結果が実証分析によって裏付けられたといえる。 ⑤政府と非営利組織(企業)との協力関係の理論 これまで検討してきた諸理論は、非営利組織の存在根拠、相対的規模を明ら かにするが、Salamon[66]が批判しているように、政府と非営利組織との間の協 力関係(partnership)を無視する、ないしはその発生を説明しないという問題を 内包している。まず、いわば政府の失敗に基づくWeisbrodの理論によれば、非 営利組織は政府サービスによっては充足されない需要を満たすという点で、政 府行政に代わるサービス供給組織として機能する。したがって、彼の理論は、 政府と非営利組織との協力関係の存在を一般的には説明できない、ないしはそ の発生を予測しないという問題点を含むといえる。 次に、契約の失敗理論に基づくHansmann等の理論によれば、非営利組織の存 在の根拠は、それが営利組織よりも信頼の点で優位性を有することに求められ る。しかし、これに政府を加えた場合には、もし非営利組織の財・サービスよ りも政府の財・サービスの方が信頼性が高いとすると、消費者にとっては非営 利組織よりも政府に依存する方が得策となる。あるいは、消費者は、完全な契 約が可能となるように政府に何らかの規制を設させるよう行動することになる かもしれない。契約の失敗に依拠する理論は、したがって、こうした点を説明 しないという問題点を含んでいるといえる。 そこでSalammonは、現実に存在する政府と非営利組織との間の協力関係を説 明し得る理論を構築するために、「ボランタリー組織の失敗」(voluntary failure)理論を展開している。50) この理論は、従来の非営利組織理論の発想を逆転させたものといえる。つま り、政府の失敗や市場の失敗が非営利組織の役割の根拠を与えるという従来の 発想を逆転させ、非営利組織の失敗が政府の役割の根拠を与えるという発想法 をとる。また、政府が非営利組織と協力関係をもつのは、各種の需要に対処す るための取引費用が大きいからであると解釈される。政府が行動を起こすには、 官僚による必要性の認知、計画や法律の作成、議会での過半数の賛成が必要で あり取引費用がかかるが、同時に、非営利組織に活動を委ねる場合にも取引費 用がかかる。そこで、もし取引費用の面で非営利組織の方が優越しているなら ば、政府は、機動性や自由裁量性を考慮しながら非営利組織に活動を委せ、非 営利組織の活動が不十分な場合、つまり非営利組織が失敗する場合は、それを 補完する行動をとることになる。51) Salamonの非営利組織の失敗の理論は、非営利組織の発生理由や存在根拠その ものを理論的に説明するとはいえないが、現実に存在する政府と非営利組織の 協力関係を説明する接近法としては有用である。また、彼は非営利組織の有力 な理論に対して批判的な見方をしているが、二つの理論を相互補完的とみる方 がむしろ妥当と思われる。
6 非営利組織に対する公共政策 非営利組織に対する補助や非課税措置等の根拠は、本来政府が提供すべきサ ービスを代行する、あるいは広く社会的に便益の及ぶサービスを提供すること から、行政サービスや租税負担の軽減に役だっていることにあるとされる。以 下では、これら非営利組織に対する租税・補助金政策の論点を概観する。 非営利組織に対する補助や非課税を支持する代表的論者はWeisbrodとHansmann である。Weisbrod[80]は、非営利組織の提供するサービスの特質は行政サービ スによっては充足されない部分を補完することにあり、公共財の性質を有する と強調している。公共財理論の示すように、サービスが公共財の性質を有する ならば、効率的資源配分のためには社会的外部性に応じて補助金を与える、あ るいは少なくとも非課税にする根拠は十分にある。 Hansmannは[27]は、非営利組織の提供する財・サービスが本質的に民間財で あるとしても、情報の非対称性によって生じる契約の失敗に対応した財・サー ビスであり市場の効率的資源配分に貢献すると強調している。そうであるなら ば、政府が非営利組織を補助ないし非課税にする根拠がある。Hansmann[28,29] の提示する他の根拠は、利潤分配をしないという定義から、非営利組織は資本 を拡充するために株式を発行できず、これによって営利企業よりも資本増加が 困難な状況にあるということである。これは、割当によって非効率が生じてい ることを意味している。 これらの非課税ないし補助金を支持する見解に対しては反対論もある。例え ばGoodspeedand Kenyon[24]は、Hansmmam[28]の主張に対して、利潤の非分配制 約は資本制約を表わすものではなく、したがって、非課税の根拠は適切ではな いと結論している。彼らは、資本制約が実効的であるとしても、割当と選択的 要素税が等価であることを示し、これから制約の資源配分に与える影響をみる。 いま、租税免除が割当された要素に向けられるならば、割当された要素が移動 性のない要素であるなら、資源の誤った配分効果はないことになる。また、租 税免除が移動性のある要素に帰着するならば、資本は非営利部門に移動するこ とによって租税を免れることができる。これにより生産の歪みはより悪化する が、非営利部門の産出が増加するならば配分効率を改善しうることになる。し たがって、全体の厚生の改善のためには、配分効率の改善が追加的な生産の歪み を上回る必要がある。これらのことから、彼らは、非効率を除去する最善の方 法は割当を除去することであり、非課税措置は次善の方法であると主張してい る。 さらにZimmerman[84]は、非営利組織の存在根拠を与えるWeisbrodの公共財モ デルあるいはHansmannの契約の失敗モデルはいずれも、非課税の十分な根拠を 与えるものではないと主張している。その理由として彼は、Salamon[66]の「ボ ランタリー組織の失敗」をあげている。例えば、社会全体の構成員ではなく相 対的に富裕な構成員を対象とした排他的な私立大学や芸術等の非営利組織の存 在である。また、非対称情報に対処することを目的とした非営利組織は、実際 にはHansmannの名付けている「商業的」非営利組織であるケースが多いことで ある。52) 消費者の生活共同組合などに代表される団体がこの例である。 最後に、Schiff and Weisbrod[67]モデルからは、非営利企業への非課税は効 率面の損失をもたらすことから、非営利企業の生産が社会的最適量よりも少な いと判断されるならば、非課税措置の廃止と追加的補助金とを抱き合わせるの が望ましいという政策的含意が得られる。 このように、現状においては、非営利組織に対する公共政策のあり方に関し てコンセンサスを得ることは困難である。この最も根本的な要因は、非営利組 織のモデル設定が、市場構造、参入決定、租税帰着、資本制約などに関して論 者ごとにまちまちなことにある。53) したがって、今後は、非営利組織が実祭 に活動している環境や具体的行動と整合性のあるモデルが構築され、そのよう な理論モデルに基づいて実証分析がなされる必要があろう。公共政策の指針は、 これらの分析に基づいて、非課税ないし補助金の社会的限界コストと非営利組 織の活動による社会的限界便益とを比較することによって与えられる。54)
注) 26) 非営利組織の名称については、James[39]、Hodgkinson[32]、Salamon[65]、 Weisbrod[80]を参照されたい。 27) Korten[41]p.23。企業のフイランソロピー活動については、長坂[103]、福 原[107]を参照されたい。なお、Korten[4]は日本企業のフイランソロピー 活動について痛烈な批判を展開しているが、自らが見聞したことをもとに 記述しているため、誤解や事実に反した批判的見解が随所にみられる。 28) 非営利団体に対する租税措置については、Blazek[10]、今田[87]、山内 [113]、吉岡[115]、渡辺[116]を参照されたい。 29) London[48]邦訳26頁参照。 30) Levitt[47]邦訳64頁。 31) Etzioni[19]p.39。 32) この節の多くは、大住荘四郎[90,91,92]、川口[94]34-37頁、に負ってい る。また、経済企画庁経済研究所[94]、経済企画庁国民所得部[95]を参照。 33) 公益法人の包括的な検討に関しては、公益法人協会編[97]、橋本徹・他編 [106]、森泉[112]を、また、狭義の公益法人である社団・財団については 入山[88]を参照されたい。 34) Salamon[66]35-66頁、Salamon[66]p.54では、非営利組織は「募金機関」 (funding agencies)(資金供給の仲介機関とも呼ばれる)、「会員奉仕組織」 (member-serving organization)、「公益サービス組織」(public-benefit service organization)、「宗教組織」(religious organization)の四つの クラスに類型化されている。なお、森泉[112]の分類による「行政補完型公 益法人」は、日本の公益法人の設立ないし活動が政府主導の下で行われる 傾向が強かったことを反映しているといえよう。 35) 総務庁行政観察局編[118]70頁。また、以下のような団体は許可されないと される。(1)同窓会、同好会等構成員相互の親睦、連絡、意見交換を主たる 目的とするもの。(2)特定団体の構成員または特定職域の者のみを対象とす る福利厚生、相互救済等を主たる目的とするもの。(3)後援会等特定個人の 精神的、経済的支援を目的とするも。 36) いわゆる任意団体の問題がこれである。これと関連する公益法人の制度上 の問題点については、跡田[85]、本間[111]、山内[114]を参照されたい。 37) 森泉[112]3頁。London[48]も参照されたい。 38) James[38]p.185が指摘するように、非営利組織はある意味で商業的活動を 行う企業と政府との混種である。営利組織との相異(政府との類似)点は、 利潤の分配をすべき所有者がいないこと、資源は内部で使用されることで ある。また、政府との相異(営利組織との類似)点は、自発的なベースで 資金を獲得しなければならないことである。 39) 非営利組織(非営利企業)に関する理論の展望としては、Holtmann[33]、 Lawson[45]が有益である。 40) Newhouse[54]では、サービスの数量は病院にかかる患者の日数で測定され、 また、サービスの品質については、「便宜的に費用そのものを品質の尺度 として用いる」(p.67)とされる。モデルへの品質の組み込み方には幾つか ありうるが、ここでは、サービスの品質は費用に影響するが収入には直接 の影響はないものと解釈している。例えば、より良い医師ないし看護婦を 雇うとすると費用は増加するが、直接には医療収入の増加に結び付かない ことを想定すればよいであろう。なお、Holtmann[33]p.31では、サービス の数量と品質を分離できるものと解釈し、モデルにおいて品質を異なるサ ービスのように扱っている。 41) Newhouse[54]p.73参照。 42) Goodspeed and Kenyonは非営利企業の生産物が慈善財(charitable goods) であり外部性を有するものと想定しているが、ここでは私的財を暗黙に仮 定している。 43) 非営利企業の産業への自由参入および損失が生じるまでの参入がある場合 の長期均衡は、営利企業の場合のそれと同じになる。 44) 内部補助に関してはJames[38]を参照されたい。 45) Chillemi and Gui[13]は、異なる観点からであるが、モデル分析によって Hansmannの議論を裏付けている。 46) 共同組合の理論の詳細については、河口[94]を参照されたい。 47) Ben-Ner and Hoomissen[6]は、供給側面を含めBen-Ner[4]の理論をより発 展させている。 48) Sherman and Visscher[69]は、ピーク期とオフピーク期をもつ確率的需要 のケースについて次善の価格設定を分析している。 49) ケース1は、内点解においては限界代替率と相対価格が等しくなければな らないことを示す。ケース2は、Q1=0の端点解においては、限界代替率 が相対価格より小さくなければならないことを示す。ケース3は、Q2=0 の端点解においては、限界代替率が相対価格より大きくなければならない こと示す。 50) 詳細については、Salamon[66]pp.33-49を参照されたい。 51) Salamonは、非営利組織が失敗する要因として、(1)フィランスロピーの不 十分性(philanthropic insufficiency)、(2)フィランスロピーの専門主義 (philanthropic particularism)、(3)フィランスロピーの父権主義 (philanthropic paternalism)、(4)フィランスロピーのアマチュア主義 (philanthropic amateurism)をあげている。(1)による失敗は、非営利組 織が公共財の性質をもつ財・サービスを供給する場合に、フリーライダー 問題と関連して生じる。(2)による失敗は、非営利組織が不特定多数の集団 ではなく、特定の部分集団を対象として財・サービスを供給することから 生じる。(3)による失敗は、社会のニーズの誤った判断から生じる。(4)の 失敗は、(3)とも関連するが、いわば素人が社会のニーズを判断することか ら生じる。 52) 非営利組織に対しては非課税措置がとられているため、非営利組織と同じ 市場にいる営利組織が不利な競争を強いられるとする「アンフェアな競争」 に関する議論については、Rose-Ackerman[63]、Steinberg[75]、Zimmerman [84]を参照されたい。非営利組織に対する非課税措置ないしアンフェアな 競争に関して、Rose-AckermanとSteinbergは擁護的立場、Zimmermanは批判 的立場をとっている。 なお、Hansmann[31]によれば、非営利組織の商業的活動は、西暦1900年 にはほとんど存在しなかったが、西暦2000年には非営利組織全体の3分の 2を占めるようになると予想される。非営利組織による商業的活動の増大 がこのまま続けば、現行の公共政策が転換を迫られるかもしれない。 53) この点に関する詳細な展望については、Steinberg[75]を参照されたい。 54) この点の分析については、Eckel and Steinberg[17]が有益である。なお、 日本における非営利組織の税制上の問題点については、跡田[85]、今田[87]、 本間[111]、山内[114]を参照されたい。
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