レーザー物理学研究室セミナー


  • 講 師:  梶田雅稔先生(情報通信研究機構)
  • 題 目:  極低温分子の振動遷移周波数精密計測による陽子−電子質量比変化の検出
  • 日 時:  2月20日(月)16:30〜
  • 場 所:  理学部A129号室(物理会議室・図書室)
  • 概 要:  
     極低温分子の振動遷移周波数の精密測定を通じて陽子ー電子質量比の時間的変化を測定する可能性を議論する。
     今回は(1)基礎定数変化の概念、(2)陽子ー電子質量比が変化したときに分子遷移周波数に与える影響、(3)遷移周波数の測定精度を決定する要素を初心者向けに解説する。

    (1) 基礎定数の変化の概念
    もし基礎定数が現在与えられているものと違う値を持っていたら、我々は存在できない。例えば強い相互作用と電磁力の比率を示す微細構造定数が大きすぎれば陽子間のクーロン力が強すぎて原子核がそんざいしないし、小さすぎれば分子結合ができない。基礎定数の微妙な組み合わせによって我々は生きられるのであるが、それは偶然というにはできすぎだという考えがある。そして実は我々はレールの上の一次元でしか生きられない列車と同じで基礎定数が連続的に変化する多次元の世界のうちの特定の基礎定数の組み合わせからなる四次元平面に生きているのだという説がある。その座標軸が直交していなければ基礎定数が変化するのが見えるはずだと考えられる。

    (2) 陽子ー電子質量比が変化したときに分子遷移周波数に与える影響
    分子遷移には電子遷移、振動遷移、回転遷移がある。このうち電子遷移周波数は陽子ー電子質量比の変化の影響をほとんど受けない。回転遷移周波数は陽子ー電子質量比に反比例し、振動遷移周波数は平方根に反比例する。以上の記述はあくまで単純モデルによるもので実際にはもっと複雑である。

    (3) 遷移周波数の測定精度を決定する要素
    陽子ー電子質量比の変化は1年で16桁目くらいと言われている。その変化を実験的に観測するには遷移周波数を16桁以上の精度で測定する必要がある。そのため到達可能な精度の評価が必要である。実際に測定の不確定さは(i)統計的不確定さと(ii)系統的不確定さがある。

    (i) 統計的不確定さ
    実際には測定周波数はには遷移スペクトルが有限の幅を持つことに由来し て、測定するたびに真の遷移周波数の周りに広がりを持って分布する。多くの測定サンプルを集めて平均をとればそれは真の値になるが、その測定点の広がりによって不確定さを生じる。その不確定さは測定サンプルの数の平方根に反比例して小さくなっていく。

    (ii)系統的不確かさ
    分子が受ける電場、磁場の影響などで本来の遷移周波数からシフトした周波数が測定される。実際にどのくらいのシフトが生じるかを見積もって真の値を探ることは可能であるが、そのシフト量にも不確定さがある。

    そのうえで、XH+分子イオン(X:アルカリ土類原子の偶数同位体)の振動遷移周波数を16桁の精度で測定する可能性に言及する。時間が許せば光格子内のYbLi分子の振動遷移周波数の測定の提案をも大まかに紹介する。


連絡・問い合わせ先: 森脇

2012年2月13日更新