2000年10月から約6ヶ月間、VBL(Venture Business Laboratory)の海外研究開発動向調査としてアメリカ、マサチューセッツ工科大学(MIT)に滞在してきました。滞在先はEECSのProfessor Fonstadの研究室で、Si-VLSIと化合物半導体素子の新しい集積化手法に関する研究を行ってきました。これは、超高集積化が可能なSi-VLSIと、レーザー・フォトダイオードなどの光素子や、超高速・超高周波動作可能な化合物半導体電子デバイスとのMonolithicな集積化を可能にする技術で、実現すれば大きなインパクトがあります。
具体的には数umから数十um程度の化合物半導体デバイスブロックを先に作製し、それを自己整合的にSi 基板上に配置する技術です。私自身、最初にその話を聞いた時はそんなことが可能なのか?と疑問に思ったのですが、discussionを通して十分可能性があることが分かって来ました。画期的な技術はこういうところからうまれるかもしれません。MITではFonstad先生と一緒に、この自己整合配置を実現するために必要なattractive forceを磁性体を使って作るための理論的な検討をしてきました。実験も始める予定だったのですが、結晶の準備が遅れ、これからというところで帰国になってしまったのが残念です。しかし、今後、Fonstad先生とは協力をしながら研究を進めていく予定です。
さて、MITは工学の分野では世界で最も有名な大学の一つですが、実際に滞在してみると、それ以外の面でも非常に興味深い大学であることがわかりました。この大学は「いたずら」あるいは一種のJoke(MITではHackと呼んでいますが、コンピュータのHackingではありません)が伝統になっています。最も有名なのはGreat Domeと呼ばれるMITの象徴的校舎のてっぺんにある日パトカーが置かれていたというものです。この建物は5階建ての大きな建物で上部はドーム状になっています。その上にある日パトカーが乗っていたのですから大騒ぎになり、地元の新聞Boston Globeにも大々的に報道されたそうです。これを初めとして、今までにいろいろなHackが行われています。私が特に気に入ったのは、Yale大学とHarvard大学のフットボールの試合(これはケンブリッジ−オックスフォードや早慶戦のようなものです)中のHackです。ある人が、合図に従って上にあげるとYaleの文字が浮かび上がるという説明で、30cm角ほどの色のついた紙を観客に配りました。しかし、実際出てきたのはMITだったというものです。(もちろん、掲げた観客は何が出てるか分かりません!)このほかにもいろいろなHackがなされているわけですが、面白いのはこれらがほとんど学校公認に近いことです。もちろん、大学は公式にはHackを否定するわけですが、実際のところ、学内の廊下にこれまでのHackの写真が誇らしげに(?)貼られていますし、MIT MuseumにはHall of HacksというこれまでのHackを展示した部屋までありました。その他、例えば、MITの公式ホームページでDisneyを検索してみて下さい。DisneyがMITを買収!というすごいページが見つかるはずです。(過去のHackを集めたHack Galleryのホームページはここです。)そう言う意味でHackはMITの伝統ということが言えると思います。また、MITでは1月のはじめから約1ヶ月間は、Independent Activity Period (IAP) と呼ばれる特別な期間で講義はありません。その代わり、論理学、タイムマシンの可能性から、宗教と科学の関わり、マナー教室、(日本製)アニメ上映会、料理、柔道、剣道、テッコン道など、硬軟取り混ぜたいろいろなことが行われます。私もいくつか出席して見ましたが、学生の反応も面白く、大変興味深いものでした。こうしたMITの伝統ですが、ある意味、プレッシャーのかかった学生生活の裏返しということもできるかもしれません。彼らはhome work も多く明け方までそれに追われることも珍しくないそうです。いずれにせよ、アメリカの学生の生態を垣間見れたことも本滞在の一つの収穫です。
最後になりましたが、受け入れ先のFonstad教授、アメリカ滞在中ご迷惑をお掛けしましたVBL長の澤木教授、量子工学第6講座、水谷孝教授、岸本助手、大野助手に感謝します。
本文章はVBLの平成12年度活動成果報告に書いた文章に手を加えたものです。