発光寿命測定システム

 蛍光やリン光の寿命は電子励起状態の重要な性質です。発光寿命から励起状態の電子構造スピン状態を 明らかにできますし、励起状態がエネルギーを失うメカニズムの解明を行うことができます。蛍光寿命は5ns1ns10のマイナス9乗秒)以下なのに対し、リン光寿命は1ns以下のものもあれば1sを越えるものもありますので、発光寿命の測定にはさまざまな測定方法や検出器が必要です。また、試料の色によっ て光励起する波長や光検出器を変える必要があります。当研究室には、主に3つの寿命測定装置があります。
下の図に示すような様々な励起光を用いて寿命測定を行っています。                                 

 短い発光寿命の測定を行うためにはナノ秒以下のパルス光源が必要ですが、そのようなパルスレーザーは高価ですので多くの波長を揃えようとすると何百万円もの研究費が必要です。そこで我々は、非常に安価な光源として、次世代
DVD用の半導体レーザーダイオード(LD)や超高輝度LEDに注目しています。
これらの光デバイスは数百円から数十万円で入手でき、しかも毎年新たなデバイスが開発されている非常に 魅力的な光源です。当研究室では、シャープがブルーレイ用に開発したLDをゲインスイッチングさせて パルス幅100ps以下の405nm光パルスを発生させることに成功しました。この光源は1個のロジックICと 数個の高周波トランジスタで作った簡単な回路で駆動している大変安価なサブナノ秒パルス光源です。 また日亜化学の373nmの紫外LDや485nmのLDについても、パルス幅200psの発振に成功しました。                                                                                   
 さらに、このLD用駆動回路は、LEDの短パルス発振にも使えます。最近、SEOUL OPTO DEVICE 社のUV-LEDを 使って、波長280nmのパルス幅1ナノ秒以下の紫外光源をつくりました。この光源は有機物の蛍光測定に非常に重宝しています。                                                                        

 検出系としては、通常の光電子増倍管の光電流の実時間測定と時間相関単一光子計数(TCSPC)測定ができます。

TCSPC装置は5年の年月をかけて開発しました。検出部には電子走行時間広がりが230ps程度の新しいメタル チャンネルダイノード型電子増倍管を用いており、液体窒素を用いた自作の冷却ユニットにより-30℃に冷却 しています。TACやピコ秒ディスクリはORTEC製です。H23年度には、電子走行時間広がりが30psのMCP-PMTを 購入してより短い発光寿命の解析を可能にしました。このシステムとLD・LEDパルス光源を使った時間相関単一光子計測を 行うと、〜30psまでの発光寿命を決定することが可能です。                          

 これらのシステムの他に、かの銘機、HoribaのNAES-550を用いたマルチタックのTCSPC寿命測定もできます。 これはNECのPC98で制御されていた古いNAES-550を中央大学から頂いてきて、現在のwindowsでデータ収集でき るように復活させたものです。N2放電ランプによる紫外励起により、1ns〜100nsの寿命が簡単に測定できます。