生体内にはない機能性RNAを人工的に創製する研究は、 進化分子工学(in vitro selection)と呼ばれる手法によって主導されてきた。
RNAを用いた進化分子工学は、目的とするRNA分子の選別、増幅、(必要に応じて)変異導入のステップの繰り返しから構成される。 1014~1016程度の異なる塩基配列を含むDNAの配列集団(ライブラリ)から転写合成によってRNAの配列集団を合成し、 その膨大な配列ライブラリから、目的の機能に応じた配列の選別を行う。 選別された極微量のRNA分子を逆転写でDNAに変換後、PCRにより増幅(と変異の導入)を行う。 このDNA集団を転写すれば、選別をくぐり抜けたRNA配列の集団が得られる。 これらダーウィン進化の過程(選別→増殖→変異)に類似した一連の操作を、選別条件を段階的に厳しくしながら繰り返すことで、 最終的に目的の機能に最も適したRNA配列を選別することが可能である。
現在までに、特定の分子に選択的に結合する機能性RNA"アプタマー"や、 酵素活性を有する機能性RNA"リボザイム"がこの手法によって多数獲得されており、進化分子工学法は RNAの生命起源説に迫る基礎研究から、 創薬や医工学的ツールへのRNAの応用利用まで多方面に大きな貢献を果たしている。
特にアプタマーは、病因タンパク質を標的とすることで抗体同様の分子認識能力と結合能力をもちつつ、 さらには免疫原性をもたず、化学的に大量合成が可能であるといった抗体にはない利点をもった生体分子として、 次世代の医薬(核酸医薬)として非常に注目度が高い。