3年生以下の皆さまへ
- ●構造地質学という学問は,現在岩石中に見られる大小様々な変形構造が,どの様な物理条件下で,どの様な歴史を経て形成されたかを考える学問です。扱う題材は,電子顕微鏡でやっと見えるような結晶構造の欠陥(転位)から,大陸の衝突といった地球規模の現象にまで及びます。正確に言うと,私の興味は変形構造自体にあるわけではなく,地球全体の生い立ちや営みにあります。それを知るために特に変形構造を用いているわけです。自分では,あらゆる地質現象を総合して,地球の生い立ちを見ようとしているつもりです。
- ●現在の地下深部からの情報をキャッチする能力において,私は他の先生より劣っていると自覚しています。現在の地下深部で何が起こっているのかを知るための手段(例えば,川崎先生の地震学や氏家先生の岩石学)を,もっと勉強しておけばよかったと思います。しかし地表には,過去の地殻深部や上部マントルを構成していたと考えられる岩石が,広く分布することがあります。こういった岩石を観察することで,過去の地下深部に関してすごいことがわかるのではないかと密かに期待しています。特に白亜紀(約1億年前)くらい古い時代について見ると,日本の地表には,当時さまざまな深さにあった岩石が露出しているのです。肉眼観察だけからでも,白亜紀の島弧の3次元的な全体像を描くことができそうです。ヤスリ1本でエッフェル塔を盗みにいった,怪盗ジバコの心境です。
- ●深さ方向だけでなく,広さ方向の勉強も大切です。日本列島は,大陸的な地質体や大洋的な地質体,またシベリアに類縁の地質体やオーストラリアに類縁の地質体が複合して成り立っています。日本列島を理解するには,これらの地質体が,いつ・どの様に合体したかを明らかにしなければなりません。最近の研究は,日本の地質体が,海陸境界に平行な横すべり運動を複雑に何回も受けた結果,現在の様に集積したことを示しつつあります。インド亜大陸のような正面衝突とは,かなり異なる集積のしかたです。
- ●この様に,3次元的データにしっかりと時間軸を入れて,地球の進化を議論していくのが私の仕事です。
- ●卒論は,ある小地域の地質調査から始まることになるでしょう。その際にも,全体の中での調査地域の位置づけを常に考え続けて欲しいと思います。そうしないと,調査にも面白味がでないし,何をしたら少しでも学問に貢献できるのか?といった目的も見出せなくなります。自分の位置を知らせてくれるコンパス(GPS
?)は,沢山の論文(多くは英文)です。論文中の事実と解釈とを見分け,事実のみに基づいた自分なりの全体像を作り上げていきましょう。

図:古地磁気データによる,後期ジュラ紀におけるアジアの主要なブロックの配置(Enkin et al., 1992 を一部改変).日本は
J の位置にあったとされる.