共鳴トンネル素子を用いた超高周波カオス生成

最近、情報処理の分野では非線形現象の示すカオスを積極的に利用して、カオティックサーチやカオスニューラルネットワークなど新しい情報処理アーキテクチャーを築こうと言う研究が行われています。これらは、ノイマン型情報処理では困難な問題をカオスの持つ複雑なダイナミクスによって解こうというものです。

共鳴トンネル素子は非常に非線形性が強く、うまく使えば、シンプルで制御可能、かつ超高周波のカオス生成が可能と考えられます。これにより、カオスを用いた超高速集積回路への道を開けます。これは、例えば、通信分野など、超高速集積回路が必要な分野へのカオスの応用を可能とし、集積回路、カオスの応用研究の両面において大きなインパクトが期待できます。

我々は現在、共鳴トンネル素子の非線形性を活かしたカオス生成法として2つの異なる方法を提案しています。一つは共鳴トンネル素子の負性抵抗特性を用いた強制振動Van der Pol発振器によるカオス生成器であり、もう一つは共鳴トンネル素子の電流-電圧特性自身を利用したシフトマップ写像によるカオス生成器です。前者は2次元の微分方程式系に現れるカオスで、後者は1次元の差分方程式系に現れるカオスです。特に前者は非常に簡単な回路で超高速、低消費電力の特徴があり、現在、分周器などへの応用を目指して研究を続けています。すでに50 GHzという高周波での動作を確認しています。 詳しくは下記の科学研究費補助金成果報告書をご覧ください。


*カオス

ある種の非線形システムにおいて見られる、決定論的であるにも関わらず、一見ランダムな振る舞いを指します。初期条件依存性が非常に強く、近接した2つの初期値に対する解軌道は時間の経過と共に指数関数的に離れていきます。例えば、下図はRoessler方程式の解で、非周期的で複雑な挙動を示します。


本研究テーマに関する科学研究費補助金成果報告書のPDFファイルを下に置きます。
「共鳴トンネルカオスデバイスを用いた超高周波信号生成・処理技術の研究」(4.5 MB)

極微電子工学講座