MOBILEは単安定−双安定転移論理素子(MOnostable-BIstable transition Logic Element)の略で共鳴トンネル素子の微分負性抵抗を利用した新しい論理ゲートです。この論理ゲートは下図に示すように2つの共鳴トンネル素子を直列に接続し,振動型のバイアス電圧で駆動するのが特徴です。MOBILEの動作原理について少し詳しく説明しましょう。
左図のような接続をしたとき、出力のとりうる値の数は印加した電圧によって変化します。このことを右図に示す負荷曲線図を使って説明します。負荷曲線図とは、直列接続回路の動作点を調べるためのもので,一つの素子(青い素子)の電流−電圧特性にもう一つの素子(赤い素子)の電流−電圧特性を左右反転して書いたものです。このとき、反転した曲線の原点を印加電圧に一致させると,2つの曲線の交点が回路のとりうる状態になります。
まず図のa)の様に印加電圧がピーク電圧の2倍より小さい時を考えます。このときは2つの線の交点は1つしかありません。これが単安定状態です.さて、印加電圧を大きくしていくとb)の状態になります.このとき、交点は3つありますが、真ん中の一つは不安定で、この状態をとることはできません。したがってこのとき回路の出力がとりうる値は2つになります。これが双安定状態です。この2つの出力を数字の1と0に対応させれば,論理ゲートになります。このとき、1と0のどちらの出力をとるかは2つの共鳴トンネル素子のピーク電流の大きさによって決まります。例えば、図に点線で示したように下側の素子(青)のピーク電流が大きければ、出力は0に、反対なら1になります。したがって、ピーク電流を制御できる共鳴トンネル素子を用いれば、論理ゲートを構成できます。上の写真はその一例です。ここで、駆動電圧はクロック信号とみなすことができます。
MOBILEの特長としては、まず、共鳴トンネル効果の高速性を利用を出来る点があげられます。共鳴トンネル効果は非常に高速な現象で。THz近い発振も観測されています。したがって、この論理ゲートも非常に高速な動作が可能です。
もう一つは、この論理ゲートが値を保持する機能を持っている点です。つまり、スイッチングは駆動電圧が上昇するときに起こり、その後入力が変化しても、駆動電圧が小さくなるまでその値を保持し続けます。これは双安定を利用しているためで、一つ一つの論理ゲートが記憶装置を持っていることになります。この機能は用途によっては非常に有効です。
最後に,多数の入力をつなぎ,重み付き加算としきい値処理を行える点があります。これは、二つのピーク電流の差がどんなに小さくても、出力は中間の値をとることはなく、必ず1か0になるため、多入力化が容易なためです。この演算は脳の神経細胞(ニューロン)が行っているものと非常に良く似た機能で,様々な応用が考えられます。
上記の特徴を活かした様々な応用を提案しています。ここにそのいくつかの例を示します。