共鳴トンネルデバイスとは?

分子線エピタキシを初めとする最近の結晶成長技術の進展は,原子の数が数えられるくらい非常に薄い層構造を結晶基板の上に形成することを可能にしました.これによって,上に示すような構造を作ることができます.これは化合物半導体GaAsとAlAsを層状に積み上げたもので,それぞれの厚さは数nm(原子層にして5から20層程度)です.

この構造の伝導帯は電子に対して2つのエネルギー障壁を持ちます.2つの障壁に囲まれた部分は量子井戸と呼ばれますが,ここでは電子はある限られたエネルギーしか持つことができません.これは,電子が波の性質を持つためです.電子の波は障壁のところで固定されますから,その波長の1/2が量子井戸の幅(あるいはその整数倍と)と一致しなければなりません.波長が決まるとエネルギーも決まるので,電子は限られたエネルギー(これを量子準位と呼びます)しか持てないことになります.このため,量子準位と同じエネルギーを持った電子は量子井戸内に侵入でき、2つの障壁を通り抜けることができます.これが共鳴トンネル効果です.

共鳴トンネル効果によって微分負性抵抗をもつ特異な電流−電圧特性が得られます。これを上図によって説明しましょう。(a)は熱平衡状態の伝導帯を示しますが、電圧をかけていくと,まず,量子準位を通って電流が流れ出します(b).その後,ある程度まで電圧をかけると,量子準位がエミッタ側の伝導帯より下側になってしまい,急激に電流が減少します(c).この部分が微分負性抵抗と呼ばれ,共鳴トンネル素子に特徴的な特性です.(なお,さらに電圧をかけていくと漏れ電流や,障壁の上側を越えていく電流が増加します.)したがって全体の電流−電圧特性は挿入図のような形になります.

ここに上記を説明した動画を置きます。ご覧下さい。

共鳴トンネル素子は特異な電流−電圧特性が得られること,非常に高速であること,室温で動作可能なことから、共鳴トンネル論理ゲートMOBILEへの応用など、現在最も研究が進んでいる量子効果素子です.


共鳴トンネル素子を用いた超高速集積回路にに関する科学研究費補助金成果報告書のPDFファイルを下に置きます。
「共鳴トンネル素子を用いた極限高速集積回路技術の研究」(2.1 MB)
極微電子工学講座