富山大学理学部物理学科

2021年ノーベル物理学賞解説

2021年のノーベル物理学賞は真鍋淑郎先生、Klaus Hasselmann 先生、Giorgio Parisi 先生に授与されることが発表されました。おめでとうございます。国内でノーベル物理学賞に対する興味が高まっていることを受けて、物理学科の教員として”俯瞰的な”解説を試みます。詳しい具体的な解説は下記参考文献をご覧ください。
 • 日経サイエンス
 • 日本物理学会
(大関先生の「まずは根を張れ,実るのはその後からだ」ではParisi先生の人となりが紹介)
 • 物理という観点からの真鍋先生の業績:江守先生
 • ノーベル財団(英語)
 • スウェーデン王立科学アカデミー(ノーベル物理学賞選考機関)(英語)

Q1. 今年の受賞理由はまとめると「複雑な物理系の理解に対する顕著な貢献」ということだそうですが、もう少し具体的に説明してください。
A1. 複雑な物理系の規則や振る舞いを導き出すということです。例えば一つ一つの原子の振る舞いを追跡しないが、原子の速さの平均値を計算するということが挙げられます。物理学の研究では普遍的に用いられる手法で、(他の大学も同様ですが)富山大学物理学科の学生の必修科目、統計力学、はその最も基本的な例といえます。

Q2. 上の受賞理由に対し、受賞者3名(真鍋淑郎先生、Klaus Hasselmann 先生、Giorgio Parisi 先生)それぞれ具体的にどのようなトピックで貢献されたのですか。
A2. 真鍋先生、Hasselmann 先生は地球の気候(地球物理)という複雑な物理系に対する業績が、Parisi先生はスピングラス(例えば銅にわずかに鉄が混じった合金)の磁性(物性物理)という複雑な物理系に関する業績が評価されています。Parisi先生の方法は物性物理の枠を越えて、今日では様々な分野で応用されているものです。

Q3. ここで”地球物理”という単語が出てきましたが、“地球物理”と”物理”は違うのでしょうか。
A3. “物理”は素粒子から宇宙まであらゆるスケールの現象を対象としています。地球スケールの現象を扱う”地球物理”は”物理”の一分野といえますが、”物理”から独立した分野として扱われる場合も多いです。例えば富山大学理学部物理学科には素粒子、原子、物性、宇宙を対象とした研究室はありますが、地球物理は対象としていません。一方、理学部生物圏環境科学科、都市デザイン学部地球システム科学科に地球物理を対象とした研究室があります。また真鍋先生は東京大学”地球物理学専攻”(物理学専攻でなく)から博士号を授与されています。

Q4. 地球物理がノーベル物理学賞の対象となったことはあったのでしょうか。
A4. 非常に少ないです。具体的な人数は、地球物理とそれ以外の物理の境界は明瞭でないのでいろいろな意見があると思いますが、1947年のアップルトン(Appleton、地球大気上層の研究)と1970年のアルヴェーン(Alfvén、(地球の磁気圏と関係がある)磁気流体およびプラズマ物理への貢献)の2人くらいではないでしょうか。ノーベル物理学賞受賞者は総勢219人で、そのうち地球物理は4人のみということです。

Q5. 今年の受賞でノーベル賞の対象が広がったということでしょうか。
A5. 今年の受賞対象となったような複雑な系の物理の研究においては、理解のためのキーポイントを見出す洞察力、そしてそれを出発点として研究を進める能力が求められます。ノーベル物理学賞の対象が地球物理まで対象が広がったと言うこともできますが、その根幹には物理の普遍的な考え方があり、3名の先生方の深い物理的洞察力と研究遂行能力が評価されたと言うこともできるでしょう。