Green Chemistryは,
United States Environmental Protection Agency(US EPA,米国環境保護局)のPaul T. Anastasと
University of Massachusetts-Boston(マサチューセッツ大学ボストン校)のJohn C. Warnerに
よって提唱されました。
Green Chemistryは,これからの化学のあるべき姿を現したものだと,私は考えてます。
製品やその製造工程には,有害な物質は使用しない。
またその製品や製造工程から有害な物質は発生させない。
このような考え方,環境汚染予防の近道になるでしょう。
有害なものを使わず,そして出さなければ,環境が汚染されることはないのですから。
有害なものとは何か,については,よくよく考える必要がありますよ。
思いもよらないものが,実は有害だった,なんてこともありますので。
The 12 Principles of Green Chemistry(直訳すると「緑の化学の12箇条」とでもなりましょうか)
という,いわゆる「化学者のためのGreen Chemistryの手引き」がありますので,紹介しましょう。
The 12 Principles of Green Chemistry
1. Prevent waste(廃棄物を出すな!)
基本原則です。
廃棄物が出ると,適正に処理し,場合によっては埋め立て処分しなければなりません。
廃棄物を出さないような「ものづくり」ができれば,
そのような手間がいらなくなります。
2. Design safer chemicals and products(より安全な化学物質・製品を設計せよ!)
毒性が低い,あるいはほとんどない化学物質や製品を設計できれば,
いいに決まってますよね。
3. Design less hazardous chemical syntheses(害のない合成方法を設計せよ!)
人間や環境に害のない物質を原料として使うことができる合成方法や,
有害物質が副生成物としてできないような合成方法がのぞましいといえます。
4. Use renewable feedstocks(再生可能な原料を使え!)
化石燃料や鉱物資源などの枯渇する原料ではなく,
農産物や廃棄物などのような再生可能な原料を使った方がよい場合があります。
5. Use catalysts, not stoichiometric reagents(触媒を使え!)
少しの量の触媒を使うことで,
薬品をたくさん使わないと進みにくかった反応が速やかに進む場合があります。
このような場合には,積極的に触媒を使うべきでしょう。
6. Avoid chemical derivatives(化学修飾を避けろ!)
これは説明がちょっと難しい...。
化学物質を合成するとき,反応しすぎて目的の構造が得られないことがあります。
こんなとき,一時的に構造を保護するための薬品を加えたりすることがあります。
しかし,この薬品は反応終了後には不要となりますので,廃棄物となります。
こんな薬品をできるだけ使わないことが,廃棄物削減という点では好ましいです。
7. Maximize atom economy(原子の利用効率を最大に!)
原料に含まれる原子が,
合成しようとする化学物質になるべく多く含まれるような合成方法がよいですよね。
合成しようとする物質に含まれなかった原子は...普通は廃棄物になっちゃいますから。
8. Use safer solvents and reaction conditions(より安全な溶媒・反応条件を使え!)
反応に用いる溶媒なんかは,
単に反応する場となっているだけで,原料ではないので,
反応が終わったら不要になります。
ですから,できるだけ使用しない方が廃棄物削減につながります。
どうしても使わなければならないのなら,無害なものを使うとよいです。
たとえば,有害な有機溶媒ではなく,水とか。
9. Increase energy efficiency(エネルギー効率を向上させろ!)
高温高圧ではなく常温常圧,
つまり私たちが普段生活しているような条件,で反応させることができれば,
エネルギー消費量は少ないですよね。
10. Design chemicals and products to degrade after use
(使用後に分解する化学物質・製品を設計せよ!)
かなり昔に使用禁止になったにもかかわらず,
いまだに環境中で検出されている物質がいくつかあります。
一般のプラスチックなんかも,埋めても何年もそのまま残っています。
もし,そのうち分解して無害なものになるなら,
環境に蓄積されることもないでしょう。
だからといって,環境中に排出してもよいというわけでは,もちろんありませんが。
11. Analyze in real time to prevent pollution(リアルタイムで分析せよ!)
合成中にリアルタイムでいろいろな項目を分析できれば,
副生成物の生成を防ぐように反応を制御することも可能になりますので,
廃棄物削減につながります。
また,環境への有害物質の排出予防にもリアルタイム分析は便利かもしれませんよね。
12. Minimize the potential for accidents(事故の可能性を最小に!)
爆発,火災,環境への漏出など,化学物質による事故はとても怖いです。
事故の可能性を小さくするような化学物質を設計することはとても大事です。
現在,世界各国の研究者たちがGreen Chemistryを実践すべく,
製品や製造工程に関する研究を精力的に進めています。
【引用】
- P. T. Anastas and J. C. Warner,
"Green Chemistry: Theory and Practice", Oxford University Press, New York (1998).
- United States Environmental Protection Agency, "Green Chemistry"
(http://www.epa.gov/greenchemistry/ )
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