1.柔軟指ハンドのセンシングと制御



手は脳の出張所と言われる。人間の手の器用さは類人猿と比しても際立つ。それは単に、機構的に秀でているだけでなく、感覚と運動の優れた協同現象を生み出す脳、すなわち、インテリジェンスのおかげである。1970年代から人間の手の形を模したロボットハンドや義手の製作は国の内外の多くの大学や研究機関で設計、製作され、また、人間の手の形の特徴に関する多くのmorphologicalな研究も成され、確実な成果は生れはした。しかし、多自由度の複数の指を器用に動かし、意図した作業を実現する物体操作の司令の基本となる“sensory-motor coordination”については、ロボティクスやバイオメカにクスの側面からは今までほとんど研究がされなかった。

本研究は、まず、多自由度の指一対によるピンチング作業について、物体の安定把持や姿勢制御が自由自在にできる感覚フィードバック(sensory feedback)のメカニズムを解明する。具体的には指先は半球状とし、物体側面との間にころがり(rolling)拘束を許容することにより、2次元平面下の安定把持には、従来、摩擦の無い指が3本(三角形の2D物体)ないし4本(平行面をもつ2D物体)が必要とされていた定説を覆し、2本の指で安定把持が可能になり、更に、自由度を増すことで物体の姿勢や位置が制御できる感覚フィードバックが見出し得ることを解明していく。

また、柔軟性の度合いを変えた半球を製作し、指先に装着したロボット指を作り、様々な形状をもつ物体の操作実験を行い、感覚フィードバック信号のゲイン設計の指針を求める。また、現在は物体の回転角を変位センサーで測定しているが、PSDと光ファイバーを組み合せたマイクロ光デバイスの開発を進め、指先に装着させることで、半球状の接触点や位置や反力のセンシングの実験を行うとともに、これらのセンシングデータに基づく簡明かつ鋭敏な感覚フィードバックが構成できる可能性を探る。




2.冗長自由度で起こる逆運動学の設定不良の解消
ベルシュタイン問題への挑戦

人間の腕はリーチング運動する際、冗長系になる。人間の手指も冗長自由度を持つ関節系である。これらに目標作業(リーチング、書字、物体操作)を課すと、その関節運動が逆運動学的に一意に定まらず、これをN.Bernstein”Degrees-of-Freedom”問題、あるいは、不良設定問題と呼んだ。これを解決するために運動生理学とロボティクスでは様々な研究が積み重ねられ、主として人為的な評価関数(可操作性、トルク、トルク変化、加速度、ジャーク)を導入し、その最小化によって運動生成を行うことが提案された。しかし、人間の脳が評価関数を計算している証拠は無く、むしろ、幼いときの運動の習熟によってスムースな運動生成が行えるようになっている。

本研究では、冗長自由度系に必然に起こる作業空間から関節空間への逆変換の不良設定性は、ほとんどのケースで、作業座標系からの感覚フィードバックによって、動的には自然に解消できることを解明していく。すなわち、一見、逆運動学的には運動軌道が一意には定まらなくても、何らかの作業座標フィードバックと、関節の自立的なダンピング成形のみによって組んだ閉ループダイナミクスが自然な運動軌道を生成し、目標作業を達成し得ることを簡単なリーチング作業から始めて、書字、2本指のピンチング作業、等の具体例で解明する。続いて、関節が直接駆動されるのではなく、関与の筋肉の伸縮によって駆動される場合についても、2段構えの不良設定性が自然に解明できる作業座標フィードバックの物理形式の発見に努める。また、不良設定性の自然解消には作業座標に基づく体性感覚フィードバックが不可欠であるが、その際の時間遅れの影響の問題解決にも挑戦する。




3.冗長書字ロボットの感覚フィードバックによる制御


4.ゼロモーメント多様体の安定化(ZMM制御)に基づくAcrobat Robotの運動生成法
直線上に配置