平成29年度ALL富山COC+シンポジウムが開かれ,3年間の本事業の中間報告と産業界への展開の合意形成を目的に,基調講演とCOC/COC+の取組状況の報告とパネルディスカッションが行われた。本シンポジウムには,大学,行政,企業,金融機関,メディア関係者など約500人が参加した。
地方公共団体と取り組むローカルイノベーションが各方面で注目され始め,富山大学は地域活性化の中核拠点として機能し始めたが,次なる飛躍を目指し,ローカルイノベーションの取り組みを教育活動へ還元し,地域定着にどう絡めていくかを考え,信頼の循環によCOC+事業を展開している。地域就職率10%アップの数字は大変厳しい目標であるが,到達に向けての第1歩として,教育を改革して地域定着のプログラムを作りこみ,学生の富山に対する意識が変わりつつあるところまでは到達した。
また,3大学からの報告にあったように,富山国際大学では学生の能力評価や意識変化に取り組んでおり,富山県立大学からは地域協働授業を通して学生の意識が変化していると報告を受けた。
そこで,この意識の変化を刈り取り大きな波にするには何をするべきかを議論すべくパネルディスカッションの論点を準備させていただいた。
企業人が大学で講義することは,講師となる者も何倍も勉強することになり企業にもプラスになるし,学生も学者でない現場の話が聞けるのでプラスとなる。富山県の学生の質は一般的に高いが,大都市の学生と比べるとグローバルな視点は限られてしまう。そこで中国視察を毎年行っているが中国の進化の度合いが早く勉強になる。
3大学の報告を通して各大学の取組と事業の積み重ねを地域という観点で上手に展開しているという印象を受けた。数値目標が厳しいとの声もあったが全国的な就職傾向であり,今後2年間の取組に注目していきたい。3大学とも地域科目をつくって体系的に取り組んでいるが,一つの科目で万病に効くものは難しい。様々な地域科目と大学の教養科目・専門科目を有機的に連携しなければいけないが3大学とも関係性をつくっている。他大学のCOC+の特徴は千差万別。他県の報告では,産学連携が大学の研究を歪めるとの懸念も指摘されたが,地域の課題を捉えて課題解決に大学の教員が取り組むことを教育のプログラムと組み合わせて進めることで相乗効果が出ている。最終的に各大学の中で取組を内在化していくという厳しいハードルを課している。残り2年間で成果をあげ,補助金が終了しても維持できる仕組みをつくっていくことが大切になる。
富山大学と協働で県内60数社の企業研究冊子をつくった。富山と東京の距離が縮まったこともあり,学生の東京志向が一層強くなった中で,地元企業への関心が低く地元企業の知名度も高くない中で,学生が知りたい情報も乏しかった。一方では企業サイドは人材不足であるにもかかわらず,様々な活動をするが学生にわかってもらえない。客観的なサポートが欲しいという企業の声もあった。そこで地元学生と企業を繋ぐアイディアとしてこの冊子の作成に取りかかった。企業理解による人材不足などの経営課題改善につながると考えた。また学生が直接企業を訪問し制作に協力した。銀行としても初の試みであった。学生と地域企業の接点をつくる役割を銀行が担った。
全国所長会議でも地方創生の取組についての意見交換をする場があった。大学と金融機関が連携し,財務局が支援している事例を紹介したい。奈良県の県内就職支援で地元信用金庫が女子大生に向け女性経営者による講演や職場紹介などを行った事例,淡路島での大学と信用金庫の連携で学生と若手農業就業者とのワークショップで農業就労につながった事例,四国財務局と香川大学の地方創生連携で小豆島での迷路民泊と空き家活用の取組でコンテストで最優秀大臣賞を受賞した事例がある。事業化にあたって重要なのは金融が参画することであり,学生のアイディアや夢を地域の活性化につなげられる可能性が拡がる。
来年度開設する都市デザイン学部はCOC+のコンセプトが入った学部。普通の土木系だけでなく,自然環境から構造を組立てた都市を考える。教科書は富山県で,富山の中で体感して学ぶ講義をしていく。富山大学には産学連携推進センターがあり,共同研究を推進している。最近始めたのは,学生と教員と企業技術者らが集まり対話する場をつくり学生と企業の接点を設けること。国際交流の積極的推進や医薬文理融合教育で視野の広い学生をつくることなどは,既に取り組んでいる。例えば人文学部と工学部は,まだまだ接点は少ないが,色々なことができるのは総合大学の強み。需要がない所に科学も技術も生まれない。都市デザイン学部では市民生活の中から新しい学問をつくっていく。学生に未来を見せられる大学にしなければならない。
富山国際大学就職率は100%でうち県内へは8割前後であり,これを10%あげることは非常に困難。国外留学生も多いが卒業後は国へ戻る者が多い。数値向上よりは数値維持に務めており,文理融合型インターンシップなど新たな取組も行っている。本学は戦力になるグローバル人材育成の強化を掲げており,新たな施策として,県内に本社がある海外進出企業への就職強化と県内企業就職に向けたOB/OG連携強化による県内企業の理解促進に取り組んでいく。本学現代社会学部に平成30年度から英語国際キャリア専攻を増設,学生に留学を義務づけグローバル化への種まきを進めている。子ども育成学部でも新しい英語教育を始める。
県立大では,2013年からCOC事業をおこなっている。基本的には少人数制ゼミで地域協働活動を行なっている。一部には教員の専門と離れた地域課題に授業で取り組まなければならない場合もあるが,6年間で教員のほぼ8割がこのような地域交流授業に取り組んでいる。学生が自主的に事業を継続していく仕組みを構築しようと,学生自主プロジェクトの取組や地域協働を支える学生団体「COCOS」の活動をサポートしてきた。課題解決力の高い学生が増えてきた。定着のために,課題解決型インターンシップで企業課題解決に,長期・不定期に取り組ませている。地域コミュニティーの一員として学生が地域に入り,主体的に問題解決に関わることで地域理解と課題解決力が向上する。成長した学生が地域に定着するよう取組を連動させていきたい。
各大学での課題は,学生が地域の企業を知らないこと。企業が発展していくと内容が見えなくなり,海外進出していても地域は知らなかったりする。解決のために産業観光図鑑を発刊した。制作まで様々な課題があったが,ホームページを持ち,企業見学受入れ対応を必ずできる掲載希望企業すべてを採用し,AR技術を取り込んだ冊子となった。学生に見せると同時に親に見せ、今の県内企業の姿を知ってもらうために作った。この冊子の中には,インターンシップや自分の関心・能力活用へのヒントがある。
銀行として役に立てることは,学生が富山で学んだことを自己実現したいと思える土壌をつくること。学生が就職したくなる元気な企業,魅力ある経営者を富山で増やしていくが基本。新しい起業・事業が活発になる取組を続け,応援していく。富山で学んだことを体現できる場を銀行としてどうしたらつくれるか。銀行は企業の提供するプロダクトやサイエンス・サービスのバックグラウンドになっており,土地勘もあり行政との接点もある。ファイナンスだけでなく行政・企業の課題解決の役割を求められている。富山銀行が大学へ共同研究員として職員派遣していたことから生まれた「高岡まちっこプロジェクト」では,市の空き家問題に対し,富山大学芸術文化学部の学生がシェアハウスやゲストハウスとして活用している事業があり,行政・大学・企業の接着剤として富山銀行が関わっている事例といえる。実際に学生が学んだ課題解決力を役立てることを体験してもらう場を銀行は個々の事例で提供できる。当行の通帳は富山大学芸術文化学部の学生がデザインしたものを使っている。
本日の報告で良い取組が進んでいると感じた。目標達成へは取組をコツコツ続けるしかない。学内で求心力をつけ,学内・地域を巻き込む工夫が重要となる。学外ではより難しいが,Win-Winの関係や信頼の循環を築くためには,誰かが汗をかかなければいけない。ぜひ大学には一時的に損して得取れの精神で取り組んでもらいたい。学生の自主的プロジェクトがすばらしい。大人はこれを支えていかなければならない。グローバルと地域は別の話ではなく,地域で培った力は世界で活用できる。世界にも目を向けて今後2年を飛躍の年にしていただきたい。
最近全国の大学で地方創生の学部ができてきているが,高校生への地方創生への周知が不十分である。高校生は地域への関心が低く,東京に目が向いている。地域を知らない。地域の企業も知らない。関心もない。人材育成は長いスパンで流れている。ぜひ大学は中高へも足を運び,大学が何をやっているのか知らせてほしい。中高生のうちに地域を学ばせることが重要ではないかと思う。
本日は長時間にわたりシンポジウムに参加いただきありがとうございます。
大学が富山のために一生懸命やっていることをことを知っていただいたと思います。積み重ねて努力していることは地元就職率10%あげること,コツコツ進めるしかないが大変厳しいです。県内就職率を上げるには,県内出身者を増やすのが効果的だが,富山の高校生のレベルが上がって県内大学入学者増になるのが望ましい。また,これまでの取り組みを進めるためには,教員の意識を変えることも重要です。今日は深い意義を持つシンポジウムでありました。今後あと2年間頑張ってまいりますので,温かい目で見守っていただき,地元企業の皆様には,県内学生の採用にご協力をいただきたいと思います。