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研究課題
化学の目から見る海洋環境
地球システムの中での海洋循環の役割を理解し,化学分析を主な手法として,海洋の生物地球化学的成り立ちと,大気・生物圏・地殻との相互作用を通して,海洋環境における物質の挙動や循環を研究している。さらに温暖化等の地球環境問題を通して,人間と海洋環境の関係についても考察する。具体的に,沿岸域の海洋表層で起こっている生物地球化学的な現象に焦点をあて,大気−河川と海底堆積物を一つの系としてとらえ,また,外洋域では,大気−海洋表層−中深層を一つの系とし,陸からの水・栄養塩・金属元素・粒状物質の供給量及びそれらの海洋での挙動を明らかにする。
平成17年度研究プロジェクト(Funded)
- 沿岸地下水湧水系とその海洋環境への影響評価
- 「沿岸海底湧水機構の海洋環境への影響評価及び評価システムの構築」(科研若手A・代表)
- 「東アジア沿岸域における地下水流出に伴う炭素・栄養塩類負荷量の評価」(科研基盤B・分担)
- 「海洋の微量元素・同位体に関するグローバル観測研究(国際GEOTRACES計画)」(科研基盤C・分担)
- 「Field studies in the North Pacific and new and improved sensor design」(代表:ワシントン大学APL・分担)
- 「台湾における沿岸海底湧水に関する研究」(代表:台湾国立中山大学・分担)
- 「大槌湾における海底地下水湧出の地球化学的研究」(東大海洋研共同研究・分担)
- 化学合成群集域における深海性冷湧水の形成機構とメタン湧出のモニタリング
- 「バクテリアマットと地球化学的プロキシによる日本海東縁地殻変動解析の試み」(科研萌芽・代表)
- 「富山湾沖の底層海水及び海底堆積物中間隙水の化学特性」(富山県受諾・代表)
- 人為起源物質の縁辺海・北太平洋生態系への影響
- 「ベーリング海における河川−海氷−海洋生態系への気候変動影響モニタリング」(IARC/JAXA・分担)
- 「化学的トレーサーを用いた東シナ海の水塊構造の解析」(九大・応力研共同利用・代表)
- 「日本海深層循環の変動」(理学部研究プロジェクト・分担)
- 「北極域陸棚における生物化学的循環と気候変動」(without funds)
- 極東アジア域における越境大気汚染物質とその環境影響評価
- 「環日本海域大気エアロゾル成分と, 中国・ロシア・北朝鮮国境地域開発との関係」(科研基盤B・分担)
- 「中国西南地区における大気環境およびその変動の研究」(中国科学自然科学基金・分担)
- 「The influence of Asian continental dust events on the North Pacific ecosystem」(中国蘭州大学・大気学院)
- 「1. 沿岸地下水湧水系とその海洋環境への影響評価」の詳細
- 大陸棚に存在する淡水性海底湧水系は,陸上の地下水系と連動しており,栄養塩など様々な物質を海洋に供給している。このため,その存在は生物生産を含む海洋の物質循環を考える上で,無視できない。しかし,このような海洋への淡水の供給ルートとして,沿岸海底湧水系の存在は長年にわたって見逃されてきた。ここでは,富山湾をモデルケースに,化学的手法で沿岸海底湧水系の湧出機構及びその循環を時空間スケールで解明し,沿岸海洋環境において海底湧水系の重要性を明らかにした研究例を紹介する。
- 過去5年間の結果として,魚津や黒部沖の水深約30mまでの海底で多数の海底湧水が観測され,それらは平均標高800〜1200mに降った降水が地下に浸透して扇状地の伏流水となり,10〜20年をかけて海底から湧き出したものと分かった。また,湧水は,海水の数〜数十倍もの栄養塩を含んでおり,湧水域付近では大きなクロロフィルaの存在量が観測された。富山の水収支結果を利用すると,海底湧水は河川水の1.2〜2倍もの栄養分を富山湾へ供給している結果になった。また、海底堆積物表層の温度と海底湧水湧出量に相関があることに着目し,堆積物温度から湧出量を求める方法を検討して,広域での海底湧水の湧出量(32m×32m四方の観測域における総湧出量は3.7×105L/day)及びその湧出量の分布や季節変化を明らかにした。そして、観測船を用いて夏季に海洋調査が行われ,富山湾の水塊構造モデルから,湾内浅層水へ流出される海底湧水は,最大で河川水の25%にも及ぶことが明らかになった。また,それによる溶存態リンの供給量は河川水の55%,溶存態窒素は1.3倍であり,その供給は水深180mまで及ぶことが分かった。更に,人為起源物質を視野に入れた海底湧水の沿岸生態系への影響評価を行うため,河川水・地下水・海底湧水及び海藻の窒素同位体比や,クロロフィルa・植物プランクトン計数を行った。その結果,夏季成層化が進む時期において,沿岸亜表層海水中の栄養塩が枯渇している中,湧水域では海底湧水により絶えず栄養塩が供給され,海藻や植物プランクトンの増殖を促して,藻場の維持等沿岸の生物生産に貢献していることが明らかになった。