Japanese / English

富山大学
大学院理工学研究部
土'田 共生機能科学研究室

〒930-8555
富山市五福3190


e-mail:
tsuchida AT sci.u-toyama.ac.jp
(スペースをとって"AT"を@に変換してください)
代表電話:076-445-6011

研究の背景
共生細菌が賦与する環境適応・機能の進化
 1.1 昆虫の植物適応を変える共生細菌の発見と その機能の解析
 1.2 昆虫の体色を変える共生細菌の発見と その機能の解析
野外における共生細菌の実態
 2.1 野外環境における共生細菌の分布と働き
 2.2 植物-昆虫-共生細菌間相互作用に介在する化学物質の網羅的解析
内部共生の進化
昆虫と細菌の共生機構の解明とその応用
 4.1 共生器官の選択的機能阻害による害虫制御技術の開発
研究の興味とスタンス

研究の背景

 自然界では、生物は他の様々な生物と密接にかかわりあって存在しています。そのような生物間相互作用のなかでも、最密接な空間で成立する関係として“内部共生”と呼ばれる現象が存在します。内部共生は、特殊な代謝系を持つ微生物を体内に恒常的に取り込む現象であり、宿主生物単独では利用困難な環境への適応を可能にし、生物進化や生態系に大きな影響を与えてきたと考えられています。
 現存生物種の過半数を占めるともいわれる昆虫類では、様々な内部共生関係が知られています。その中でもエンドウヒゲナガアブラムシAcyrthosiphon pisumは、多種多様な共生微生物を保有しており、飼育維持が容易であるため、優れたモデル研究系となっています。私はこれまでに本種アブラムシの共生細菌群を対象に、生態系における多様性や、感染が宿主に与える影響、宿主や外部環境との相互作用に関与する生理・分子機構を明らかにすべく、以下の研究を推進してきました。

ページの先頭へ



共生細菌が賦与する環境適応・機能の進化
<1.1 昆虫の植物適応を変える共生細菌の発見とその機能の解析>

 植食性の昆虫はふつう、ごく限られた植物しか効率的に利用できません。寄主植物特異性として知られる本性質は昆虫の食べ物や生活場所を規定するだけでなく、植物上で相互作用する他の生物にも影響を及ぼす、きわめて重要な生態的性質です。従来このような性質は、昆虫自身の遺伝子によって支配されていると考えるのが常識でした。
 そのような状況で、私は大規模な分子生態学的調査や実験室内での厳密な操作実験を駆使した解析を行い、エンドウヒゲナガアブラムシは共生細菌Regiellaに感染することによりシロツメクサ特異的に産仔数が増加し、その結果、
好適な寄主植物範囲が拡大するという、 従来の常識を覆す発見を世界に先駆けて示しました。
エンドウヒゲナガアブラムシ(上左)には、体内に必須共生細菌 Buchnera(緑)に加えて任意共生細菌Regiella(赤)を保有しているものがある(上右)。Regiellaのいないアブラムシは主にカラスノエンドウ(下左)を餌としているが、Regiellaと共生した場合はカラスノエンドウに加えてシロツメクサ(下右)も餌として利用できる能力を獲得する。

 野外に生息する様々なアブラムシ種を対象にしたRegiella感染状況の包括的な調査や人工感染実験の結果から、Regiellaがアブラムシの種を超えて宿主域を拡大しており、その際に宿主をシロツメクサに適応させる性質も同時に拡大する場合があることを明らかにしました。
エンドウヒゲナガアブラムシ(左)は、シロツメクサ(中)を寄主植物として利用できるが、ソラマメヒゲナガアブラムシ(右)はシロツメクサを利用できない。


共生細菌Regiella感染虫(橙の実線)、非感染虫(緑の破線)ともに、3日令幼虫100個体ずつを供試した結果、Regiellaの感染により、これまで餌として利用できなかったシロツメクサ上での生存期間が有意に伸び(一般化線形モデル、p<0.05)、成虫にすらなれなかった系統でも産仔が確認されるなど、植物適応が改善された。


 さらに、寄主植物適応のメカニズムを探るべく行った栄養生理学的解析から、Regiellaは 1)シロツメクサ師管液に特に不足する必須アミノ酸の供給や、2)シロツメクサの毒物質である青酸配糖体を無毒化することで、宿主アブラムシをシロツメクサへ適応させている可能性が示唆されております。
 現在、Regiellaの全ゲノム配列(約2.5Mb)を共同研究者とともに解析しており、既にドラフト配列が得られています。この解析で得られたゲノム情報をもとに網羅的な発現活性解析を行ない、植物適応に関与する共生細菌遺伝子群とその応答について明らかにする研究に着手しています。

ページの先頭へ



<1.2 昆虫の体色を変える共生細菌の発見と その機能の解析>

 様々な生物の体色や紋様は、しばしば擬態,隠蔽色,警告色、婚姻色などの機能を有しており、その生存や繁殖に関わる重要な生態的性質です。多くの昆虫と同様に、エンドウヒゲナガアブラムシには種内に遺伝的に異なる明瞭な体色多型(主に緑色型と赤色型)が存在し、捕食や寄生回避に重要な役割を担っていることが知られてきました。最近、私は、このような
野外における本種の体色の違いが、細菌Rickettsiellaの共生によって生じていることを発見しました。「体の色」という一見しただけで分かる生物の性質が、体内の共生細菌によって劇的に変えられてしまうという現象は、従来まったく知られておらず、生物の生態や環境適応の理解に新たな観点を提示する発見です。
 現在、本現象の分子基盤を解明すべく、共生によって増加する緑色色素の化学構造の解析や、Rickettsiellaの全ゲノム解読、Rickettiella感染前後の宿主アブラムシの遺伝子発現の網羅的解析に、共同研究者とともに取り組んでいます。

エンドウヒゲナガアブラムシ赤色個体(左)に、Rickettsiellaが感染すると、体色が緑色に変化する(右)。Rickettsiellaは、親から仔へと卵巣内で伝えられるため、緑に変化した体色も遺伝する。

ページの先頭へ




野外における共生細菌の実態
<2.1 野外環境における共生細菌の分布と働き>

ページの先頭へ



<2.2 植物-昆虫-共生細菌間相互作用に介在する化学物質の網羅的解析>

 生態系において、植物は食物網の最上位に位置し、それを餌にする動物の化学物質供給源となっています。既知生物種の過半数を占める昆虫類の多くは、自身を形成し、エネルギーとなる化学物質を特定の植物に依存しており、それらの化学物質を効率よく利用するための仕組みを備えています。上述のように植物適応には、昆虫自身の形質だけではなく、昆虫の体内に生息する共生微生物も大きく影響していることが近年の研究から明らかにされてきました。しかしこれまでに、多様な植物化学成分のうち、どの物質が植物適応に関与し、昆虫や共生細菌がどのようにそれを利用しているのかについてはほとんど明らかになっていません。
 そこで本研究では、北海道から東海地方にまで至る7地点の野外集団から採集した4種類のマメ科植物と、それを常食とするエンドウヒゲナガアブラムシAcyrthosiphon pisum、さらにはアブラムシ体内の共生細菌叢を研究の対象として、野外環境中におけるこれら三者の関係を包括的に解明することを目的としています。理化学研究所 横浜植物科学センター 先端NMRメタボミクス研究チームと共同で進めている本研究は、生物生態系における物質循環や、生物分布を規定する化学要因の解明を目指すきわめて挑戦的な取り組みと言えます。


解析の流れ。


アブラムシの採集(2009年7月 酪農学園大学圃場にて)



 我々はこれまでに、西は愛知から北は北海道にまで至る様々な環境に分布する複数種のマメ科植物と、それらの植物上に生息し、化学成分を有効利用していることが期待される本種アブラムシの採集を行いました。これらのマメ科植物の持つ代謝産物を1H-NMR測定によって網羅的に解析した結果、化学成分組成は植物種ごとに大きく異なることが明らかになりました。一方、アブラムシ共生細菌叢にも植物種ごとに大きな違いが検出され、植物の化学物質組成とアブラムシ共生細菌叢の間には何らかの関係が存在することが示唆されています。
 1H-NMR測定によって得られた植物化学組成データとアブラムシ共生細菌感染データを数値マトリックス化して相関解析を行った結果、植物化学物質と共生細菌との間には特異的な相関関係が存在することが明らかになりました。HSQC、TOCSY、さらには2D-J測定をおこなって植物化学成分を同定したところ、ある特定の化学物質が、特定の共生細菌を持つアブラムシの分布を規定している可能性が浮かび上がってきました。
 現在、植物化学物質と共生細菌叢の関係に加え、現在進行中のマイクロサテライトマーカーを用いたアブラムシ遺伝型の解析結果についても解析を進めています。植物化学物質と共生細菌叢にアブラムシ遺伝型を含めた三次元相関解析により、自然集団における植物—昆虫—共生細菌間関係の実態について明らかになることが期待されます。本研究の取り組みやその解析手法は、害虫管理技術等の様々な応用につながることも期待できるものです。

ページの先頭へ




内部共生の進化

ページの先頭へ




昆虫と細菌の共生機構の解明とその応用
<4.1 共生器官の選択的機能阻害による害虫制御技術の開発>

 従来の殺虫剤は、抵抗性害虫の出現や天敵等の益虫にまで悪影響を及ぼす可能性があることから、新たな害虫防除法の開発が望まれてきています。世界中の農作物の重要害虫である吸汁性昆虫の多くは、体内にある特殊な細胞“菌細胞”内に、生存・繁殖に必須の役割を果たす共生細菌を住まわせています。本研究課題では、害虫にとって必須の器官である“菌細胞”の機能を選択的に阻害することにより、選択性が高く、環境負荷の少ない害虫制御技術開発の礎を築くことを最終目標としています。近年目覚しい進歩を遂げた次世代シーケンサーを用いた網羅的な遺伝子解析技術や、躍進するケミカルバイオロジー解析手法を有機的に組み合わせることにより、これまでとは全く異なる害虫防除剤の開発が期待できます。豊橋技術科学大学の中鉢 淳博士や理化学研究所のケミカルバイオロジー研究グループとの共同研究により、アブラムシやタバココナジラミをターゲットにした研究を展開しています。

ページの先頭へ




研究の興味とスタンス

 生態系レベルでの現象を分子のレベルから理解することを目指し、様々な分野の研究者と積極的に共同研究を展開しています。

ページの先頭へ