Laboratory for Biological Information Processing
生体情報処理研究室

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Memory & Learning 記憶と学習

シナプス可塑性

 脳・神経系の半分はニューロンと呼ばれる細胞で出来ています。ニューロンは枝分かれした突起を伸ばし、他の多くのニューロンに接触しています。この接触部分がシナプスです。シナプスで伝達物質を受け渡しすることによりニューロンどうしで情報交換を行っています(シナプス伝達)。
 シナプス伝達の強度は増減することがあります。このような性質をシナプス可塑性と呼びます。シナプス伝達の強度の増減は脳・神経系内の情報の流れを変えます。この流れの変化が学習、すなわち新しい記憶の固定を支えています。シナプス可塑性のしくみは分子レベルで解析が進んでいます。
    

メタシナプス可塑性

 ものごとに対する興味の度合いや気分によって学習しやすかったり、学習しにくかったりします。このような学習能率の変化は生きていくために重要な情報を選択的に学習するのに役立っていると考えられます。学習しやすいときはシナプス可塑性が高く、学習しにくいときはシナプス可塑性が低くなっていると考えられます。ところが、シナプス可塑性を調整するしくみ(シナプス可塑性の可塑性という意味を込めてメタシナプス可塑性と呼ぶ)は謎に包まれていました。

メタシナプス可塑性を支える受容体の巨大複合体

 当研究室では小脳長期抑圧(運動学習を支える小脳のシナプス可塑性)をモデルとして、メタシナプス可塑性のメカニズムに取り組んでいます。小脳長期抑圧はプルキンエ・ニューロンの1型代謝型グルタミン酸受容体mGluR1という分子が伝達物質グルタミン酸を受容することが引き金になって起こります。
 私たちはmGluR1にB型γーアミノ酪酸受容体GABAbRや1型アデノシン受容体A1Rという別種の受容体が結合して巨大な複合体を形成していることを発見しました。脳が活発に活動すると脳を満たす組織液にGABAが蓄積します。また眠くなり始めにアデノシンが蓄積します。GABAbRやA1RがこれらGABA、アデノシンを受容すると、mGluR1のグルタミン酸に対する感度を上げたり、下げたりします。するとmGluR1が引き金となっている小脳長期抑圧が起こりやすくなったり、起こりにくくなったりします。さらにマウスの小脳に薬物を注入してGABAbRを活性化すると、小脳運動学習が促進されることも見いだしました。
 このように、当研究室は、受容体の巨大複合体がシナプス可塑性のスイッチとして働き、学習能率を調整している可能性を世界に先駆けて提示しました。

今後の研究の展開

 GABAbRやA1RによるmGluR1の変調の分子メカニズムがどうなっているか、この変調が動物の実際の学習行動にどのように役立っているか、小脳以外の脳部位が関わる学習でも同じようなしくみが働いているか、などよりミクロ、よりマクロな問題に迫っていき、学習能率調整のしくみの全容を解明したいと考えています。
 一方、これらの知見を次世代の人工知能の開発に応用していきたいと考えています。自分で学習能率を調整できるしくみを搭載すれば、自律的に学習し行動するロボット等につながると期待されます。

当教室の主要関連論文

Tabata et al., 2004
Kamikubo et al., 2007
Tabata et al., 2007
Kamikubo et al., 2013
Shirai et al,, 2014
Nonobe et al., 2016

田端教授が分担執筆した教科書

田端&狩野, 2008
Tabata & Kano, 2010