Solar Neutrinos
Super-Kamiokandeで観測される太陽ニュートリノを用いて、ニュートリノ振動と太陽内部の物理を研究しています。特に、太陽g-mode振動によるニュートリノ強度の周期変動を通して、太陽中心部の情報を得る研究を進めています。
RESEARCH
ニュートリノ, 宇宙線ミューオン, 極低放射能, 天体ニュートリノ
各研究テーマの背景と、これまでに取り組んできた課題をもう少し詳しく紹介します。
Super-Kamiokandeでは、太陽で生成された電子ニュートリノを電子散乱反応によって観測し、エネルギースペクトルや時間変動を精密に測定しています。低エネルギー領域のバックグラウンド低減と事象選択の改善により、太陽ニュートリノのスペクトル形状や昼夜差など、ニュートリノ振動に関わる情報を詳しく調べることができます。
私は、この長期間の太陽ニュートリノ観測データを利用して、太陽内部の振動とニュートリノ強度の関係にも注目しています。特に、太陽中心部で存在が予想されるg-mode振動が局所的な温度や密度に変化を与え、それがニュートリノ生成率や物質中でのニュートリノ振動を通して周期的な強度変動として現れる可能性を調べています。ニュートリノは太陽中心部から直接届くため、光では観測しにくい深部構造を調べる独立なプローブになります。
関連論文: Phys. Rev. D 94, 052010 (2016), Phys. Rev. D 109, 092001 (2024), arXiv:2604.06535
超新星爆発、重力波事象、太陽フレアなどの突発的な天体現象に伴うニュートリノをSuper-Kamiokandeで探索しています。ニュートリノは物質との相互作用が非常に弱いため、天体内部の高密度領域からも直接脱出でき、電磁波とは異なる情報を運びます。そのため、光・重力波・ニュートリノを組み合わせるマルチメッセンジャー観測において重要な役割を持ちます。
重力波事象では発生時刻の前後に観測されたニュートリノ候補を探索し、GW150914/GW151226やGW170817に対して時間相関を調べました。また、太陽フレアについては、フレアの時間発展からニュートリノ探索時間窓を定義する手法を検討し、複数の太陽活動周期にわたるデータを用いた探索を進めています。
関連論文: Astrophys. J. Lett. 830, L11 (2016), Astrophys. J. Lett. 857, L4 (2018), Solar Physics 295, 133 (2020), arXiv:2210.12948
宇宙線が大気中の原子核と衝突すると、パイ中間子やK中間子などの二次粒子が生成され、その崩壊から大量のミューオンが生じます。地下に設置されたSuper-Kamiokandeにも高エネルギーのミューオンが到達するため、地下検出器でありながら宇宙線の性質を調べることができます。私はミューオンの電荷比や偏極を測定し、宇宙線シャワー中での親粒子生成やミューオン生成過程の理解につなげています。
さらに、負ミューオンが水中で停止すると、酸素原子核に捕獲されて不安定核種を生成する場合があります。生成された16N、15C、12B、13Bなどの崩壊を測定することで、負ミューオン捕獲反応の分岐比を調べています。これらの核種は低エネルギーニュートリノ探索の背景事象にもなり得るため、宇宙線物理とニュートリノ観測の両方に関係する研究です。
関連論文: Phys. Rev. D 110, 082008 (2024), Phys. Rev. C 112, 064614 (2025)
太陽ニュートリノや暗黒物質などの稀事象を低エネルギー領域で観測するためには、環境放射能をできるだけ低減し、その濃度を定量的に把握する必要があります。特に222Rnの娘核種である214Biのベータ崩壊は重要なバックグラウンドの一つです。このため、高感度80 Lラドン検出器の開発、Super-Kamiokandeのバッファーガス中ラドン濃度の測定、純水中に溶け込んだラドンを測定するシステムの開発を行ってきました。
測定だけでなく、ラドンそのものを低減する技術にも取り組んでいます。活性炭繊維を用いたキセノン中およびCF4中でのラドン吸着効率の評価や、大面積PINフォトダイオードを用いたラドン検出器の高感度化など、検出と除去の両面から低バックグラウンド化を進めています。これらの技術はニュートリノ実験だけでなく、暗黒物質探索など他の稀事象探索にも応用できます。
関連論文: PTEP 2015, 033H01, NIM A 867, 108-114 (2017), NIM A 977, 164297 (2020), PTEP 2020, 113H01, arXiv:2112.06614, PTEP 2022, 023H01
フッ素 (19F) は核スピンを持つため暗黒物質探索の標的核として広く検討されていますが、MeV領域の電子ニュートリノに対しても原子核反応を利用できる可能性があります。そこで、フッ素を含むガスを用いて、太陽ニュートリノを含む低エネルギーニュートリノを検出する新しい手法の基礎検討を進めています。反応で生成される電子の信号に加え、核反応後の状態を利用した同時・遅延計測が可能になれば、背景事象の識別にも有利になることが期待されます。
検出媒体の候補としてCF4に注目し、低温でのシンチレーション発光特性や、CF4中でのラドン除去性能など、実際の検出器を構成するうえで必要となる基礎的な特性も調べています。ニュートリノ反応そのものだけでなく、発光量と低バックグラウンド性能を含めて検出器として成立する条件を評価することが目的です。
ニュートリノや稀事象の測定精度を向上させるためには、信号そのものの解析だけでなく、検出器応答、較正、シミュレーション、環境放射能の情報を一貫して理解することが必要です。そのため、検出器較正手法の検討、シミュレーションによる応答評価、放射能データの整理など、解析を支える基盤的な研究にも取り組んでいます。
これらの研究は単独のテーマというより、太陽ニュートリノ、宇宙線ミューオン、低バックグラウンド測定を横断する共通基盤です。検出器の系統誤差や背景事象をより正確に理解することで、最終的な物理測定の感度と信頼性を高めることを目指しています。関連する研究成果は Works にまとめています。