日時 | :令和2年11月7日(土)13:30~16:30 |
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会場 | :シリコンバー (高垣工務店1階) |
「紀伊山地の霊場と参詣道」が2004年に世界遺産に登録され、地域がどのように変化してきたのか、外国人旅行者は何を目的に田辺に訪れているのかを学ぶとともに、コロナ禍という状況下でこれから求められる観光とは何か、ビジネスチャンスはどこにあるのかを探った。
講師 | :田辺市熊野ツーリズムビューロー会長 多田稔子 氏 |
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田辺市熊野ツーリズムビューロー(以下「ビューロー」という。)は、2006年に官民協働の観光プロモーション団体として設立し、地元の受入体制の整備を図るとともに、着地型観光商品の開発を手掛け、世界旅行ツーリズム協議会(WTTC)主催の「明日へのツーリズム賞」に日本で初めてファイナリストとしてノミネートされるなど、世界から高い評価を得ている。ターゲットを目的意識の高い欧米豪のFIT(個人旅行客)に絞り、持続可能で質の高い観光地を目指し、取組を進めてきた。
基本スタンスは、「ブームよりルーツ」「インパクトを求めずローインパクト」「乱開発より保全・保存」「マスより個人」「世界に開かれた上質な観光地に」である。
そのため、まず、外国人を呼び込むには外国人の感性が必要と考え、外国人スタッフとしてブラッド・トウル氏を迎え、ローマ字表記の統一や各種セミナー、指さしコミュニケーションツールの作成などを通じ、現地のレベルアップを図り、さらに情報発信として、イベントやプレスツアー、エージェントツアー、サンティアゴ・デ・コンポステーラとの共同プロモーションなどの取組を行ってきた。
しかし、知名度が高くなるにつれ、「熊野古道を歩きたいが、どうやっていけばいいか?」「旅の行程をどう組めばいいか?」という問合せが増え、これまで運ぶ仕組みがないのに、無責任なプロモーションをしていたことに気づき、宿泊予約、決済などのシステムや個人旅行者に対するプランニングサポート等を行うため、旅行業の資格を取得し、着地型旅行業(DMC)をスタートさせた。
外国人旅行者と地域との間には、「言葉」と「決済」という2つの大きな壁があるが、ビューローは、その壁を取り除くという大きな役割を果たしている。
こうした取組の結果、ビューローの売り上げは令和元年度において、5億2千万円を超えるまでになり、当地に多くの外国人旅行者が訪れることで、地域の誇りが再構築され、地域の価値を上げることにつながっている。
しかし、これまで順調に売り上げを伸ばしてきたビューローが、新型コロナウイルスの影響により、今、大きな苦難を迎えている。
そのため、ビューローでは、これまでの基本スタンスを踏まえつつ、国内の新たな需要の掘り起こしに向け、「熊野古道女子部」や「低山トラベラー」などにターゲットを絞り、狩猟や農業、林業など地域の“人”や“暮らし”に関わらせることで関係人口へと昇華させようとしている。
持続可能な観光地づくりとは何か。コロナ禍という非常に厳しい状況であるからといって、容易にこれまでのスタンスは変えない。
むしろ、こうしたときだからこそ、ある種アナログ的な人と人とのつながりやコミュニティを形成し、関係人口を創る。その関係人口が、インフルエンサーとなり、SNSなどデジタルを活用して、国内の熊野ファンを着実に増やしていく。
インバウンドが回帰する頃には、国内の新たな需要が掘り起こされ、ビジネスチャンスが増しているのかもしれない。
講師 | :美吉屋旅館 吉本 健 氏 (1期生) |
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15年ほど前、美吉屋旅館に宿泊する外国人観光客は1年間で数名であったが、現在では1ヶ月に200名を超えることも珍しくないという状況になっている。
しかし、外国人観光客が増える一方で、多くの課題も生じており、例えば、宿泊先の予約を取っていない、日本円を持っておらず外貨両替機がない、山歩きの装備を全くしていないなど。観光案内センターでは9:00~18:00しか対応できないため、美吉屋旅館ではフロントが空いている5:30~24:00にサービスを提供することで顧客確保に繋げている。
また、客層の移り変わりを見ると、創業当時は建築関係の作業員や富山県からの薬の営業マンが中心であったが、白浜のホテル建設ラッシュや南紀白浜空港の建設などで建築関係の宿泊者が増加、白浜アドベンチャーワールドができて家族客が増加、スポーツ施設の整備によりスポーツ合宿が増加、熊野古道が世界遺産に登録されたことで外国人観光客が増加するといった経過をたどっている。最近では「旅館丸ごと貸切りプラン」を始め、大学生の利用が増えている。
美吉屋旅館における外国人観光客の利用は全体の3割ほど。やはり日本人客が中心であるものの、その利用は減少傾向にあり、減少分を外国人観光客で補っているという状況である。さらに、欧米豪の外国人旅行者が中心ではあるものの、最近ではシンガポール、マレーシア、香港、韓国などのアジア人旅行者も増加傾向にあり、新たなチャンスが訪れつつある。
一方で、季節により客層に違いがあり、特に1~2月の閑散期をどう埋めるかということが重要なポイントとなっている。
また、宿泊する外国人旅行者のニーズは、「宿の予約代行や、荷物一時預かり、山歩き用品の販売及びレンタル、病院や薬局への付き添い」など様々で、できるだけそのニーズに応えようと、「10人には10通りのサービス」を提供することを心掛けており、このことが結果として、リピーターや口コミにつながっている。
外国人観光客の特徴として、「土産物はあまり買わない」「比較的早い時間に着くことが多く、時間をつぶす場所を探している」「ベジタリアンが多い」「気軽に食べられるものが好き」「7割くらいがJRパスを持っている」などを紹介し、こうした行動パターンを把握し、しっかりとニーズに応えていくことが重要である。
しかし、新型コロナウイルスにより、今年2月末頃より影響が出始め、その後、外国人観光客、団体合宿の予約はほぼキャンセル、客数や売り上げは、昨年の50%にも及ばない。
こうした中、消毒液の完備や検温の実施などの感染症対策はもちろんのこと、貸し切りプランを35名から20名に引き下げたりと対策を講じているものの、回復の目途が立たない。そのため、これまでの経験や人脈を生かして、アメリカに会社を設立し、海外に住んでいる日本人留学生などを対象にした新たなビジネスに着手しているという。
コロナ禍というピンチを契機に、一つの事業に依存するのではなく、新たな事業を模索しつつ、日本だけでなく、世界にもマーケットを広げることで、チャンスに変えようとしているのである。