日時 | :平成29年12月16日(土)14:00〜17:00 |
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会場 | :たなべる 2階 大会議室 |
これまでの講義の復習、「魚津三太郎塾」や「たかおか共創ビジネス研究所」、舟橋村の取組事例などを通じて、地域課題の解決とビジネスの両立についての知識を深めた。
講師 | :富山大学地域連携戦略室長 金岡省吾 教授 |
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東京渋谷で開催された地方創生フォーラム「まちてん」での様子を紹介しながら、金岡教授が手掛ける「魚津三太郎塾」や「たかおか共創ビジネス研究所」から生まれた事例を参考に、地域課題とビジネスを結びつけることで企業が生き残れること、こうしたプロジェクトに若者が憧れ、地方に帰りたい、住みたいと思う時代へと変革していることを学んだ。
また、舟橋村の事例などを通じて、人口減少克服への子育て世代の移入とビジネスチャンスについて、自らが考える機会とし、10日目の講義を終えた。
「まちてん」では、大企業が協賛しており、こうした大企業においては、企業が地域課題を解決するCSVやローカルイノベーションに注目し、すでに実践をはじめている。これまではイノベーションといえばITという印象が強かったが、現在は地域課題解決を企業利益に結びつけ、ローカルイノベーションが地方創生の最先端となりつつある。
こうしたことに数年も前から取り組んでいるのが、「魚津三太郎塾」や「たかおか共創ビジネス研究所」である。「魚津三太郎塾」では『水循環』をテーマに、現在6期目を迎え、これまでの提案事業の実行率は50%を超え、大きな実績を挙げている。また、約50名もの塾生を輩出し、修了生が中心となって「NPO法人三太郎倶楽部」を設立、ギフトカタログの制作・販売といった取組に広がりを見せていることも紹介した。しかし、ただ単にビジネスを展開しているのではなく、塾での学びを通じて、誰もが地域のことが語れ、地域を守らなければ自分たちは生きていけないということを自分の言葉で話し始めている。結果として、地域資源、地域課題を自社の強みと結び付け、新たなビジネスを展開することで地域に誇りを持つともに、商品やサービスが売れ始めたのである。
「たかおか共創ビジネス研究所」においても、4期40名近い塾生を輩出し、数々のローカルイノベーションが創出され、今年度から「とやま呉西圏域共創ビジネス研究所」へと活動を広げている。
こうした新たな地域づくりは、大学の講義においても、大学生が面白いと感じ、憧れる時代へと変わりつつあり、大学卒業後、都会に就職したとしても、将来、地方に帰りたい、住みたいと思わすことで、人口減少に歯止めをかけることを企図している。
これまでは、人口増加を基調とした考え方により、「全国総合開発計画」として、国土の均衡ある発展をめざし、国が主導してインフラ整備など“開発”を基軸とする地域づくりが行われてきたが、人口減少社会を迎え、「国土形成計画」では、地域の課題を解決するため、「小さな拠点」や「新たな公」など行政や民間が互いの強みを生かし、多様な関わりの中で、地域に根差したローカルイノベーションを創出していくことが地域づくりには必要であるという視点に転換した。
しかし、これは農村地域に限った話しではない。限界集落は都市部でも起こっており、高度成長期に建てられた団地では、若年層が転出し、高齢化が進み、団地内で限界集落化が生じている事例が見受けられる。そこで、首都圏では、民間事業者と連携し、PPP(公民連携)という手法を活用しながら、子育て支援センターの併設など子育てしやすい環境、コミュニティが形成されやすい環境を作ることで子育て世代を移入させる取組を進めている。
大手住宅メーカーにおいても、これまでの早く作って早く売るという従来型の宅地開発の考え方から、地域課題の解決と宅地開発を組み合わせることで企業利益に結びつけ、さらに企業の価値をあげていくという考え方にシフトし、コミュニティを武器にした子育て世代向けの住宅開発を進め、好調な販売を続けている。人口減少克服への子育て世代の移入に向けた取組は、自治体でも進められている。
富山県舟橋村では、住宅開発を公共が先導し、その後に民間企業が追随した結果、子育て世帯を中心に人口増加が進んだ。しかし、周辺地域よりも地価が安かったことから進展した住宅開発は、地価格差が逆転したため、住宅開発が大きく鈍化し、将来的には高齢化が進み、人口が減少してしまうことが明らかとなった。そのため、舟橋村では、子育て世代の移入に向けて、医療費無料化や保育料無料化といった自治体間競争ではなく、安心して子育てできる環境や仕組み、コミュニティを形成することで子育て世代を移入させようというプロジェクトを進めている。具体的には、村が賃貸住宅を建設し、保育園を民営化、コミュニティが醸成される公園を子育て共助の観点からPPPやPFI(公民連携)の手法を用いて創ろうというもので、舟橋村や富山大学地域連携推進機構のほか、シンクタンク、金融機関、住宅メーカー、造園業者、大手通信会社など、産学官金による多様な60人強のメンバーが集結し、人口減少の歯止めに直結した施策を展開しているのである。
このプロジェクトに関わる役場職員は、「この賃貸住宅があるからここに住みたい」「この保育園があるからここに住みたい」「この公園があるからここに住みたい」ということが本当に可能なのかについては半信半疑であったようである。しかし、子育て支援センターに遊びに来たことをきっかけに、舟橋村に住むことを検討し、ママ友を対象にリサーチしているママは一人や二人ではないようだ。つまり、「この支援センターがあるからここに住みたい」を実現しかけており、「この賃貸住宅があるからここに住みたい」ということも、決して机上の空論ではないことを役場職員が実感し始めている。
価格競争ではなく、コミュニティ形成を武器に真に必要とされる新しい価値を創造する。 舟橋村プロジェクトの手法は、子育て世代の移入に限ったことではなく、山積する地域課題に対して、地方が生き残るモデルとなる事業ではないだろうか。