たなべ未来創造塾
未来デザイン

たなべ未来創造塾 第2期 事業レポートReport

6日目「出汁(だし)による地域活性化ー観光客受入と物販の好循環づくりー」

2017年 10月14日
日時 :平成29年10月14日(土)14:00〜17:00
会場 :田辺市文化交流センター たなべる 2F大会議室

県外事例として、かつお節日本一の生産量を誇る鹿児島県枕崎市で水産会社を営む中原水産株式会社代表取締役の中原晋司氏から、事業内容や地域活性化への取組を伺うことで、新たな販路として観光客をターゲットにしたビジネスの可能性を探った。

講義 「出汁(だし)による地域活性化ー観光客受入と物販の好循環づくりー」

講師 :中原水産株式会社 代表取締役 中原晋司 氏
6日目 出汁(だし)による地域活性化ー観光客受入と物販の好循環づくりー

中原水産は、創業約70年を迎え、これまで卸部門と加工部門(かつお節製造)を柱として経営してきた。しかし、1990年頃から水産業は厳しい時代を迎える。需要は減り、魚は減り、かつお節も作れば売れるという時代ではなくなったのである。

中原氏は、東京の大学を卒業後、大手コンサルティング会社、新規事業育成会社で勤務していた。こうした中、家業である水産会社の経営が厳しい状況に追い込まれていることを知り、このまま放置して見離すか、家業を継ぐかの決断が必要となる中、故郷への思いや責任感から、10年ほど前に後者を選択、そこから中原氏による事業の立て直しが始まったのである。

テーマは、「出汁」。
中原氏は、かつお節から出汁をとる人が大幅に減少しているにも関わらず、枕崎では、かつお節そのもの、あるいは削り節しか販売しておらず、消費者ニーズと大きくかけ離れていることに気付く。そのため、まずは、知人のせんべい店とコラボし、「かつおせんべい」を開発。これまで、鹿児島県の土産物が、重たくて、賞味期限が短くて、小分けできないという商品が多かった中で、消費者ニーズと合致し、一つの成功体験をおさめることができたのである。

このことを皮切りに様々な商品開発にシフト。こうした一企業の取組と同時並行的に、枕崎のまち全体が「出汁」の魅力に気づき始め、地域の異業種が中心となり、新たな地元グルメ「枕崎鰹船人(ふなど)めし」を開発。県内のグルメグランプリで2連覇を達成した。

次に、鹿児島県全体で出汁に注目した動きが開始する。鹿児島県主催の「かごしまものづくり郷中塾」から生まれた「出汁の王国・鹿児島プロジェクト」を始動し、「出汁」をテーマに異業種による共同プロモーションや商品開発をしようという試みを行った。

その後、「出汁プロジェクト」のメンバーでかつお節生産工程を視察する行程の一環として、「出汁」の取り方講座を実施したことをきっかけに、お出汁教室や、お出汁バー、お出汁カフェなど、様々な場所で「出汁」の魅力を知ってもらう取組へと広がっていったのである。

こうした取組が反響を呼び、今では外国人観光客の受入へと展開。また、実演に対して、適正な料金を頂くことで、サービスとしての質があがり、このことが結果的に物販にもつながっている。

さらに、自身の趣味である鉄道を生かし、鉄道を絡めた「出汁」を体験する様々な事業に携わることで、枕崎への交流人口を増やし、地域活性化とともに、物販に好影響を与えている。

さらには、香港やシンガポール、フランスといったアウトバウンドの獲得にも着手し、出汁ライブや展示会、料理教室などの取組を通じ、販路を世界にも広げている。「かつおせんべい」を作るところから始まった「出汁」の取組は、今では、インバウンドの受入、さらにはアウトバウンドの獲得へと、好循環が生まれているのだ。

最後に、事業存続に向けて

  • 事業寿命が尽きたときの事業の閉じ方が非常に大切。
  • 新規事業の見極め。新しいことは成功するかどうかはわからない。短いスパンで挑戦して良ければ続ける、ダメならやめる。短期間で小さな仮説検証を繰り返す。
  • 素早く利益を生み出す事業と、時間はかかるが着実に利益があがる事業のバランス
  • まずは、「生活の安定」。それができたうえで「社会への還元」

と述べた。

また、人口10万人程度の地方都市は、ある程度の競争もあり、顔も見え、新しいアクションを起こすにはちょうど良い規模だと思っている。新たな一歩を踏み出してもらいたいとエールを送り、講義を終えた。

質疑及びディスカッション

出汁(だし)による地域活性化ー観光客受入と物販の好循環づくりー

質疑では、塾生より多くの質問が中原氏に投げかけられた。

前職のコンサルタントとしての経験と経営再建に取り組む事業者として経験の両方を兼ね備える中原氏の回答からは、重みと自信が伝わり、塾生にとっては大きな刺激になったに違いない。

しかし、答えは誰も教えてくれない。環境が刻々と変化する中で、生き残るために、何をすべきか、自分が考えて、一歩踏み出す。トライ&エラーを繰り返した先に答えが見えてくるのかもしれない。