たなべ未来創造塾-地域から必要とされる新たな仕事を創りだす-
未来デザイン

たなべ未来創造塾 第4期 事業レポートReport

7日目 「地域資源を生かした新たな価値の創造」

2019年10月19日
日時 :令和元年10月19日(土)14:00~17:00
会場 :たなべる2階 大会議室

市内事例として、熊野米プロジェクトに取り組む(株)たがみの田上雅人氏、熊野米を使った日本酒「交」を作った(株)堀忠商店の堀将和氏、虫食い材(あかね材)を活用したBokuMokuプロジェクトに取り組んでいるBokuMoku代表、(有)榎本家具店の榎本将明氏から、実践事例を学んだ。

今回のテーマは、「バリューチェーン」「サプライチェーン」。
強みを持つ事業者同士がつながることで価値が高まる。一人ではできないことも、みんなで取り組めば可能となる。
生産から消費までの流れの中で、誰とつながると価値が高まるのか、どうwin-winの関係性を構築するか。
地方で生き残るためには、人とのつながりは重要なのだとあらためて感じさせられる講義となった。

講義 「熊野米プロジェクト~地域を見直し新しい価値を創造する米づくり~」

講師 (株)たがみ 専務取締役 田上雅人 氏
地域資源を生かした新たな価値の創造

米屋が米農家になる。人口減少が進む中、米屋が生き残って行くために田上氏が出した答えだった。
和歌山県はめはり寿司やさんま寿司、鯖寿司など米文化が豊かな地域でありながら、地場産米は後継者不足で生産もままならない状況となっている。 そのため、20歳代の頃から抱いていた「オリジナルの米を作りたい」という思いをカタチにしたいと考えた。

品種は、コシヒカリではなく、地域の特性にあった「ヒカリ新世紀」を採用。これまで主に廃棄されていた梅の調味廃液を田んぼに施用することで、地域課題の解決につなげるとともに、雑草が抑制、除草剤の使用が軽減されることで、安心・安全な米を消費者に提供する地域循環型の米づくりとして、地元生産農家や県農業試験場、田辺商工会議所と連携し、農商工連携の認定を受け、「熊野米プロジェクト」を始動した。
しかし、生産する農家が儲からないと米づくりは続かない。通常の米よりも高く、一定の値段で買い取る仕組みを構築。当初は農家集めに苦労したが、徐々に賛同してくれる生産農家が増え、今では農家所得が向上するとともに、Uターン者が増えるなど担い手の確保にもつながっている。

また、田上氏は、自らも遊休農地を活用し、農業に参入。「商」から「農」へ。全国でも1~2例程度しかないケースとのこと。栽培の苦労が分かると、「一生懸命作った米を安く売りたくない」といった気持ちが芽生えた。そのため、ホームページを開設し、「熊野米」の背景やストーリーを伝えるとともに、米屋以外のところにも置くことができ、手に取ってもらえる商品を目指し、パリ在住のデザイナーとコラボし、これまでの米にないデザインを完成、商標登録も取得した。核家族化や多忙なライフスタイルへの対応、非常食としての役割も見据え、300gの小分けサイズや米粉パン、熊野米リゾットなど新商品の開発にも力を注いだ。

販売先は、地元ホテルや飲食店、ECサイト、産直店、市内外の量販店など多岐にわたる。商談会にも積極的に出向き、新たな販路開拓にも取り組んでいる。
そして、「安売りは一切しない。そうすればブランド価値が下がり、そのしわ寄せが農家に行き、結果的に地域を守ることができなくなる」という強い信念を持っている。また、これまでの取組が評価され、フードアクションニッポンアワード入賞や各種メディアに取り上げられるなど、「熊野米」への追い風は大きく吹き始めている。

さらに、新たな展開として、裏作への挑戦や、堀忠商店とコラボした日本酒プロジェクト、熊野米10周年に向けた取組などにも着手していることを紹介した。

「関係人口」の創出にも努めている。都会に住みながら地方に関わりたいという人を対象とした連続講座「たなコトアカデミー」や、高校生による収穫体験、都市圏企業のワーケーション受け入れなど。
最後に、「やり続ければ、いつかは成功する」「自分一人でできないことでも人とつながることで新たな価値が生まれる」「思考は行動を変える、自分の頭で考えたことは必ずできる」と自身の経験から4期生へメッセージを送り、講義を終えた。

講義 地元に愛される酒「交」

講師 (株)堀忠商店 堀 将和 氏(1期生)
地元に愛される酒「交」

酒類の消費量は、平成に入ってからやや減少にとどまっているものの、内訳をみると、これまで主力であった日本酒やビールの消費量が大幅に減少している。
また、酒類業免許場の推移では、平成17年の酒類免許自由化により、コンビニエンスでの販売が大幅に伸びており、堀忠商店の主たる卸売先である一般酒販店の割合が平成7年度の78.8%から、平成27年度には28.4%にまで減少している。

こうした状況の中、どうすれば自社が生き残れるかを考え、ネット販売や空き瓶の回収による販路開拓に取り組んできたものの、抜本的な解決には至らなかった。

そのため考えたのが自社の新たな価値の創出、オリジナルの日本酒の開発であった。
酒類の輸出額をみると日本酒が大幅に増加していることが分かり、田辺市では世界遺産登録後、外国人観光客が大幅に増加していることもあり、外国人への提供がビジネスチャンスになるのではないかと考え、テストマーケティングを兼ねて200店舗もの飲食店が軒を連ねる「味光路」で提供することとした。

また、国内のビジネスチャンスを模索する中、日本酒の購入割合をみると、スーパーやディスカウント店、コンビニエンスストアよりも一般酒販店での割合が大きいことから、日本酒を作ることで自社の卸売先である一般酒販店を守ることにもつながるのではないかと考えたのである。
では、どうすれば、ここにしかない日本酒を作ることができるのだろうか。

酒造りには、粒が大きく、磨きにも耐えることのできる酒米を使うのが通常だ。しかし、当地に根差した食用うるち米である熊野米を使うことで、他にはない新たな価値が生まれるのではないかと考えたのである。製造は同じ和歌山県内で南方熊楠にゆかりのある株式会社世界一統に、さらに日本酒のブランディング、プロモーションは地元のTETAUに依頼し、多くの人が日本酒の出来上がるまでのプロセスを共有することで地域に愛される日本酒を作ろうというプロジェクトを始動、まち歩きや熊野古道歩きを通じて、地域のことを知りながら、参加者全員で一緒に日本酒を作ることで、ここにしかない価値、共感される背景やストーリーが込められた日本酒が完成した。

堀氏は、人のつながりや交わりで生まれたという意味を込めて日本酒に「交」という名をつけたのである。こうした取り組みが評価され、各種メディアに取り上げられるとともに、2018プレミア和歌山において審査員奨励賞を受賞など注目されるようになっている。

最後に、堀氏は、たなべ未来創造塾を通じて様々な人とつながることで新しい価値が生まれると4期生に伝え、講義を終えた。

講義 BokuMoku Projects

講師 BokuMoku代表 (有)榎本家具店 榎本 将明 氏(1期生)
BokuMoku Projects

家具屋を取り巻く環境は、生活様式の変化による需要減少、異業種からの参入やインターネットの普及による価格競争、さらに少子高齢化や人口減少による市場の縮小など、厳しさを増しており、これを裏付けるように、全国の家具屋の売上げは1991年をピークに約20年間で1/5まで減少している。

また、林業を取り巻く環境も厳しく、木材価格はピークの昭和55年と比較すると、約1/4にまで落ち込み、さらに、適正に管理されない山林が増えることで、スギノアカネトラカミキリによる食害が和歌山県内に広がっており、こうした食害を起こした木材は「あかね材」と呼ばれ、建材として使用されないことが多く、時には焼却されることもあるのが現状だ。

そのため、今まで価値がなかったとされる「あかね材」を活用し、虫食い部分を隠すのではなく、木材の持つ個性として考え、デザインの力で新たな価値を見出すことができないかと、育林業、製材業、木工職人、一級建築士、家具屋、グラフィックデザイナーといった地域内の異業種6名で「BokuMoku」を立ち上げた。また、このプロジェクトに共感した都市圏の専門家や企業などもサポートメンバーとして参画している。まず、ものづくりについては、市長室に納品したテーブルを皮切りに、椅子や看板などプロダクトが徐々に増えており、地域内の企業や都市圏企業、カフェなどにも納品できるようになった。

また、子どもたちを中心に山のことを知ってもらいたいという思いから、ワークショップや森林体験・勉強会なども積極的に開催している。

こうした取り組みが評価され、間伐・間伐材利用コンクールで特別賞を受賞するなど、共感が広がりつつある。

今後の展望としては、
・「あかね材」を活用したプロダクトの多様化(家具だけでなく、様々な場面で使っていただけるよう)
・異業種とのコラボレーション
・異素材とのマッチング
・ECサイトでの販売
・他産地との連携
などに取り組んでいくことで、あかね材のブランドを確立し、持続可能な地域づくりに向けた役割を果たしたいと話し、講義を終えた。