日時 | :令和元年11月2日(土)14:00~17:00 |
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会場 | :田辺市文化交流センター たなべる 2F大会議室 |
「紀伊山地の霊場と参詣道」が2004年に世界遺産に登録され、地域がどのように変化してきたのか、外国人旅行者は何を目的に田辺に訪れているのか、ビジネスチャンスはどこにあるのかを探った。
講師 田辺市熊野ツーリズムビューロー会長 多田稔子 氏 |
田辺市熊野ツーリズムビューロー(以下「ビューロー」という。)は、2006年に官民協働の観光プロモーション団体として設立し、地元の受入体制の整備を図るとともに、着地型観光商品の開発を手掛け、世界旅行ツーリズム協議会(WTTC)主催の「明日へのツーリズム賞」に日本で初めてファイナリストとしてノミネートされるなど、世界から高い評価を得ている。ターゲットを目的意識の高い欧米豪のFIT(個人旅行客)に絞り、持続可能で質の高い観光地を目指し、取組を進めてきた。
基本スタンスは、「ブームよりルーツ」「インパクトを求めずローインパクト」「乱開発より保全・保存」「マスより個人」「世界に開かれた上質な観光地に」である。
そのため、まず、外国人を呼び込むには外国人の感性が必要と考え、外国人スタッフとしてブラッド・トウル氏を迎え、ローマ字表記の統一や各種セミナー、指さしコミュニケーションツールの作成などを通じ、現地のレベルアップを図り、さらに情報発信として、イベントやプレスツアー、エージェントツアー、サンティアゴ・デ・コンポステーラとの共同プロモーションなどの取組を行ってきた。
しかし、知名度が高くなるにつれ、「熊野古道を歩きたいが、どうやっていけばいいか?」「旅の行程をどう組めばいいか?」という問合せが増え、これまで運ぶ仕組みがないのに、無責任なプロモーションをしていたことに気づき、宿泊予約、決済などのシステムや個人旅行者に対するプランニングサポート等を行うため、旅行業の資格を取得し、着地型旅行業(DMC)をスタートさせた。
外国人旅行者と地域との間には、「言葉」と「決済」という2つの大きな壁があるが、ビューローは、その壁を取り除くという大きな役割を果たしている。こうした取組の結果、ビューローの売り上げは平成30年度において、4億4千万円を超えるまでになり、当地に多くの外国人旅行者が訪れることで、地域の誇りが再構築され、地域の価値を上げることにつながっている。
持続可能な観光地づくりには、地域経済への波及、キャッシュポイントを生み出すことが重要であり、ビューローは大きな役割を果たしているのである。
ビューローの新たな戦略として、当日予約や決済、荷物の一時預かり、グッズ販売などを取り扱う「熊野トラベル」をオープンさせた。さらに、「熊野古道女子部」を立ち上げ、日本人観光客の誘客に向けた取組にも着手、もう1泊2泊と伸ばすためのアクティビティ開発を目指した「熊野古道+(プラス)」、熊野エリアにある技術や産品を組み合わせ、新たな熊野の商品を開発する「熊野古道×(クロス)」にも取り組んでいる。また、中辺路ルートで培ったノウハウを他のルートにも展開し、熊野古道の価値をさらに高めようとしている。ビューローの持続可能な観光地に向けた取組にゴールはない。
挑戦は、まだまだ続く。
講師 美吉屋旅館 吉本 健 氏 (1期生) |
15年ほど前、美吉屋旅館に宿泊する外国人観光客は1年間で数名であったが、現在では1ヶ月に100名を超えることも珍しくないという状況になっている。
しかし、外国人観光客が増える一方で、多くの課題も生じており、例えば、宿泊先の予約を取っていない、日本円を持っておらず外貨両替機がない、山歩きの装備を全くしていないなど。観光案内センターでは9:00~18:00しか対応できないため、美吉屋旅館ではフロントが空いている5:30~24:00にサービスを提供することで顧客確保に繋げている。
また、客層の移り変わりを見ると、創業当時は建築関係の作業員や富山県からの薬の営業マンが中心であったが、白浜のホテル建設ラッシュや南紀白浜空港の建設などで建築関係の宿泊者が増加、白浜アドベンチャーワールドができて家族客が増加、スポーツ施設の整備によりスポーツ合宿が増加、熊野古道が世界遺産に登録されたことで外国人観光客が増加するといった経過をたどっている。最近では「旅館丸ごと貸切りプラン」を始め、大学生の利用が増えている。
現在、美吉屋旅館における外国人観光客の利用は全体の3割ほど。やはり日本人客が中心であるものの、その利用は減少傾向にあり、減少分を外国人観光客で補っているという状況である。さらに、欧米豪の外国人旅行者が中心ではあるものの、最近ではシンガポール、マレーシア、香港、韓国などのアジア人旅行者も増加傾向にあり、新たなチャンスが訪れつつある。
一方で、季節により客層に違いがあり、特に1~2月の閑散期をどう埋めるかということが重要なポイントとなっている。
また、宿泊する外国人旅行者のニーズは、「宿の予約代行や、荷物一時預かり、山歩き用品の販売及びレンタル、病院や薬局への付き添い」など様々で、できるだけそのニーズに応えようと、「10人には10通りのサービス」を提供することを心掛けており、このことが結果として、リピーターや口コミにつながっている。
外国人観光客の特徴として、「土産物はあまり買わない」「比較的早い時間に着くことが多く、時間をつぶす場所を探している」「ベジタリアンが多い」「気軽に食べられるものが好き」「7割くらいがJRパスを持っている」などを紹介し、こうした行動パターンを把握し、しっかりとニーズに応えていくことが重要である。
最後に、宿泊施設から見た、“あったらいいな”と思うサービスを列挙し、講義を終えた。