日時 | :平成29年10月28日(土)14:00〜17:00 |
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会場 | :田辺市文化交流センター たなべる 2F大会議室 |
市内事例として、熊野米プロジェクトに取り組む(株)たがみの田上雅人氏、古民家を再生し、ゲストハウス、シェアハウス、カフェバーに取り組むLLPタモリ舎の中村文雄氏(中村工務店)、横田圭亮氏(㈱横田)より、CSVの実践事例を紹介頂いた。
講師 | :(株)たがみ 専務取締役 田上雅人 氏 |
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米屋が米農家になる。人口減少が進む中、米屋が生き残って行くために田上氏が出した答えだった。
和歌山県はめはり寿司やさんま寿司、鯖寿司など米文化が豊かな地域でありながら、地場産米は後継者不足で生産もままならない状況となっている。
そのため、20歳代の頃から抱いていた「オリジナルの米を作りたい」という思いをカタチにしたいと考えた。品種は、コシヒカリではなく、地域の特性にあった「ヒカリ新世紀」を採用。これまで主に廃棄されていた梅の調味廃液を田んぼに施用することで、地域課題の解決につなげるとともに、雑草が抑制、除草剤の使用が軽減されることで、安心・安全な米を消費者に提供する地域循環型の米づくりとして、地元生産農家や県農業試験場、田辺商工会議所と連携し、農商工連携の認定を受け、「熊野米プロジェクト」を始動した。しかし、生産する農家が儲からないと米づくりは続かない。通常の米よりも高く、一定の値段で買い取る仕組みを構築。当初は農家集めに苦労し、274aだった栽培面積が、徐々に賛同してくれる生産農家が増え、今では2200aにまで増加。農家所得の向上とともに、Uターン者が増えるなど担い手の確保にもつながっている。また、田上氏は、自らも遊休農地を活用し、農業に参入。
「商」から「農」へ。全国でも1〜2例程度しかないケースとのこと。栽培の苦労がわかると「一生懸命作った米を安く売りたくない」、といった気持ちが芽生えた。そのため、ホームページを開設し、「熊野米」の背景やストーリーを伝えるとともに、米屋以外のところにも置くことができ、手に取ってもらえる商品をめざし、パリ在住のデザイナーとコラボし、これまでの米にないデザインを完成、商標登録も取得した。
また、核家族化や多忙なライフスタイルへの対応、非常食としての役割も見据え、300gの小分けサイズや米粉パン、熊野米リゾットなど新商品の開発にも力を注いだ。販売先は、地元ホテルや飲食店、ECサイト、産直店、市内外の量販店など多岐にわたる。商談会にも積極的に出向き、新たな販路開拓にも取り組んでいる。しかし、安売りは一切しない。そうすればブランド価値が下がり、そのしわ寄せが農家に行き、結果的に地域を守ることができなくなる、という強い信念からだ。
こうした取組が評価され、フードアクションニッポンアワード入賞や各種メディアに取り上げられるなど、「熊野米」への追い風は大きく吹き始めている。さらに、新たな展開として、裏作への挑戦や、堀忠商店とコラボした日本酒プロジェクト、熊野米10周年に向けた取組などにも着手していることを紹介。最後に、これまでは卸売と小売業だった本業が、今では農業や加工部門にまで広がり、6次産業化による多角経営をするまでに至った。これからも生産者と消費者をつないでいきたいと述べ、講義を終えた。
講師 | :LLP タモリ舎 中村文雄 氏(中村工務店・1期生) 横田圭亮 氏(㈱横田・1期生) |
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日本はかつてない人口減少社会を迎え、建設業界では、住宅着工件数が大幅に減少し、空き家は大幅に増加することが予測されている。
こうした中、建設業界は、どうすれば生き残っていけるのだろうか。地域課題を見ると、田辺市の空き家率は、18.9%と全国平均を大きく上回る。さらに、15年間で中心市街地の人口は2割減、高齢世帯数は1.7倍に増加、空き店舗は80店舗も増加している状況だ。一方で、移住者は和歌山県内で最も多く、田辺市熊野ツーリズムビューローなどの取組が功を奏し、欧米豪を中心とした外国人観光客が急増、鬪雞神社が世界遺産に追加登録されるなど、明るい兆しも見え始めている。
こうした中、熊野詣で栄えたかつての田辺の賑わいを取り戻そうと、ゲストハウスをすることで交流人口を呼び込み、シェアハウスをすることで定住人口を、さらにカフェバーを併設することで、観光客と移住者、地域住民がエンゲージメントする場を作りたいと考え、昨年度のたなべ未来創造塾修了式においてプレゼンテーションした。
その後、日本政策金融公庫より無担保無保証で700万円の融資を獲得、クラウドファンディングでは、300万円あまりの資金を獲得し、ゲストハウスとシェアハウスは5月にオープンした。また、カフェバーでは、オープンに向けて、看板となるメニュー開発をしようと考えたが、そのとき助けてくれたのがたなべ未来創造塾のつながりであった。鳥獣害が拡大し、このままでは作物が作れなくなるとの思いから、自分たちの畑は自分たちで守ろうと、地域の若手農家で狩猟チームを立ち上げ、解体業者やシェフとコラボすることで入口から出口までを考えたジビエの取組を進める岡本農園の岡本氏、イタリアで料理の修行をし、東京から龍神村小家地区に移住し、地域で採れた少量多品目の産品を活用したいと、ビン詰め加工を中心として起業したCONSERVAの金丸氏とともに、ジビエバーガーを開発。
先日、無事、オープニングパーティを迎えることができた。LLPタモリ舎では、theCUEの取組にとどまらず、中心市街地の空き店舗や空き家を活用するとともに、同じ志を持った方々にも刺激を与えていきたい。こうしたことがエリアの価値を高め、賑わいの創出につながり、結果的にメンバーの本業の仕事づくりにもつながる、そんなLLPタモリ舎でありたいと強く述べ、講義を終えた。
質疑では、塾生より多くの質問が3人に投げかけられた。3人の回答で共通していたこと、それは、「人」と「人」とのつながりということであった。強い信念を持って一歩踏み出せば、それに共感して助ける人が必然的にあらわれる。 それがつながり、次第に面となり、一つのプロジェクトができあがっていく。 質疑とディスカッションを通じて、地域はそうやって成り立っているんだと考えさせられた。