たなべ未来創造塾
未来デザイン

事業レポートReport

たなべ未来創造塾 6日目 「地域資源を生かした新たな価値創造」<市内事例>

2016年10月8日
日時 :平成28年10月8日(土)14:00~17:00
会場 :田辺市役所 3階 第一会議室

身近な市内のビジネス事例が、何の地域課題を解決し、どのような地域資源を生かしているのか、またビジネスに隠された「仕組み」は何かを探るため、カフェアルマ芝ゆかり氏、(株)たがみ田上雅人氏を招き、「くまみつカステラ」「熊野米プロジェクト」の取組を学んだ。

講義 「くまみつカステラ」~熊野の魅力を詰め込んだ新商品開発~

講師 :カフェアルマ  芝 ゆかり 氏
「くまみつカステラ」~熊野の魅力を詰め込んだ新商品開発~

世界遺産熊野古道、巡礼者が目指す熊野三山の一つ「熊野本宮大社」。正面には大きな鳥居、その横に多くの巡礼者を迎える「瑞鳳殿」が所在する。

カフェアルマは、その「瑞鳳殿」の中にある本格コーヒーが味わえる喫茶店。目玉商品として開発した「くまみつカステラ」の事例を聞くことで、ビジネスプランのヒントを探った。 熊野本宮大社に隣接しているという立地から、メインターゲットは観光客。芝氏は、本宮地区は観光地でありながら、お土産物が少ないことから、「熊野」の魅力を伝える商品を作ることができないかと考えた。

こうした中、目を付けたのが熊野古道沿いを中心に地域の暮らしとともに受け継がれてきた「日本ミツバチ」。ごうらと呼ばれるお手製の巣箱で蜜を採取するが、生産者の多くは高齢者、ほとんどが家庭用やおすそ分けとして使われるため、一般には流通しない。

また、古くから伝わる「音無茶」。本宮地区の中でも限られた地域で栽培された一番茶だけをそう呼んでいる。しかし、これも同じく一般にはほとんど流通しない。 そこで、芝氏は、これまでの「人」とのつながりで生産者までたどり着き、まとまった量を適正な価格で買い取る仕組みを作ることで、貴重な資源を安定的に確保することを可能とした。

また、商品開発にあたっては、「熊野」の魅力、商品への想いを伝えるために、地域づくりに共に取組んできた地域内のデザイナーと連携。デザインはもちろん、パッケージの中にはしおりを入れるなど、背景やストーリーを伝えることにこだわった。 さらに、地元菓子メーカーや地域の多くの方々と関わり、一つの商品を完成させることで、地域の魅力を詰め込みながら、地域経済の循環にも繋げている。

取組はまだ始まったばかり。今後、ジェラートやアイスクリームなどの新商品や多店舗展開、「熊野」をPRするオリジナルサイトの創設など、新たな取組にも挑戦していきたいと述べ、講義を終えた。

講義 「熊野米プロジェクト」~地域を見直し新しい価値を創造する米づくり~

講師 :(株)たがみ 専務取締役 田上 雅人 氏
「熊野米プロジェクト」~地域を見直し新しい価値を創造する米づくり~

米屋が米農家になる。人口減少が進む中、米屋が生き残って行くために田上氏が出した答えだった。
和歌山県はめはり寿司やさんま寿司、鯖寿司など米文化が豊かな地域でありながら、地場産米は後継者不足で生産もままならない状況となっている。 そのため、20歳代の頃から抱いていた「オリジナルの米を作りたい」という思いをカタチにしたいと考えた。

品種は、コシヒカリではなく、地域の特性にあった「ヒカリ新世紀」を採用。これまで主に廃棄されていた梅の調味廃液を田んぼに施用することで、地域課題の解決につなげるとともに、雑草が抑制、除草剤の使用が軽減されることで、安心・安全な米を消費者に提供する地域循環型の米づくりとして、地元生産農家や県農業試験場、田辺商工会議所と連携し、農商工連携の認定を受け、「熊野米プロジェクト」を始動した。
しかし、生産する農家が儲からないと米づくりは続かない。通常の米よりも高く、一定の値段で買い取る仕組みを構築。当初は農家集めに苦労し、274aだった栽培面積が、徐々に賛同してくれる生産農家が増え、今では1500aにまで増加。農家所得の向上とともに、Uターン者が増えるなど担い手の確保にもつながっている。

また、田上氏は、自らも遊休農地を活用し、農業に参入。「商」から「農」へ。全国でも1~2例程度しかないケースとのこと。農作業を通じて米づくりの大変さを知り、「一生懸命作った米を安く売りたくない」、こうした気持ちが芽生えた。

そのため、ホームページを開設し、「熊野米」の背景やストーリーを伝えるとともに、米屋以外のところにも置くことができ、手に取ってもらえる商品をめざし、パリ在住のデザイナーとコラボし、これまでの米にないデザインを完成、商標登録も取得した。

また、核家族化や多忙なライフスタイルへの対応、非常食としての役割も見据え、300gの小分けサイズや米粉パン、熊野米リゾットなど新商品の開発にも力を注いだ。
販売先は、地元ホテルや飲食店、ECサイト、産直店、市内外の量販店など多岐にわたる。商談会にも積極的に出向き、新たな販路開拓にも取り組んでいる。

しかし、安売りは一切しない。そうすればブランド価値が下がり、そのしわ寄せが農家に行き、結果的に地域を守ることができなくなる、という強い信念からだ。 こうした取組が評価され、フードアクションニッポンアワード入賞や各種メディアに取り上げられるなど、「熊野米」への追い風は大きく吹き始めている。

質疑&ディスカッション

二人の講義のあと、約2時間にわたり、塾生と講師との質疑&ディスカッションが行われた。塾生たちが良く知る実践者のビジネスモデルは身近に感じさせてくれるとともに、地域の課題や地域資源を探るうえで、大きなヒントとなったことだろう。

富山大学地域連携戦略室長金岡教授からは、二人が何の課題を解決しているのか、塾生が自ら考え、自分なりの答えを出してほしい。そう締めくくり、6日目の講義を終えた。