魚津三太郎塾第5期の7日目が開講。地域再生システム論として富山国際大学上坂博亨教授から「でんき宇奈月プロジェクト」について講義を受け,環境と地域活性化を結びつけた事例を学び,地域の活性化に地域の企業がどのように共生し関わりを持っていけるのかを考えた。
自然再生エネルギーによる低炭素型社会実現をキーワードにし,黒部市宇奈月温泉で展開している電気自動車を活用したクリーンなまちづくりと小電力発電によるエネルギ-自給をめざして地域観光の活性化を図る地域活性化事業「でんき宇奈月プロジェクト」の経緯や概要・背景・現況や展望について紹介。
大正12年に引湯管の開通によって一気に活性化350戸の温泉街となった宇奈月温泉の歴史を話し,現在では宿泊客も最盛期の半分以下に落ち込んでいる現状や,観光バス増加による排ガス問題,狭い道路での自動車往来の増加による観光客・住民の迷惑,週末や連休時の交通渋滞などの様々な課題を抱えるなか,まち全体が一体となって温泉街の観光客数の回復と様々な課題解決のためでんき宇奈月プロジェクト実行委員会を発足させたと組織関連図を示した。プロジェクト最初の活動となった電気自動車の先進地で宇奈月温泉と共通する立地環境で観光地として成功しているスイス・ツェルマットの視察について紹介。
現地のEV(ElectricVehicle)の運行状況,村内でEV製作と修理をおこない,村内で経済循環させていることなど写真や動画を交え紹介。シェルマットの小水力発電所での電力供給やスイスの電力網について説明した。未来像を明確にイメージして共有することの重要性と個人の目標をイメージ化して全体の中で適合させることの必要性を示した。また,先進地の視察をおこなったことで事業の具体的活動イメージがはっきりさせることができ,問題にぶつかった時もツェルマットを想い出すことで原点回帰することができたと話した。
宇奈月温泉はツェルマットと類似点も多いと話し,ツェルマットの取組は宇奈月再生のポイントに間違いないと信じ,EV利用に取組み,平成22年4月から開始したプロジェクトのオープニングセレモニーの様子から一人乗り電気自動車・電気アシスト自転車・電動カートレンタル事業を紹介。失敗点改善や課題解決のために宇奈月に合わせたEV開発に取り組んだ経緯と完成運行までの状況を説明。狭い温泉街を歩行者と共存できるサイズとデザインで,歩行者スケールの時速19kmで走行させ,どこでも乗れるどこでも降りられる水平エスカレーターをイメージしたEVバスを開発し,温泉街で2013年から実証運行を始め乗車人数も飛躍的に増加して効果をあげていることを説明。2016年3月には従来の1台から3台の運行で11月の紅葉シーズン終了まで毎日運行することになったと紹介した。
また,富山県は木と水と熱の宝庫であると話し,自然エネルギーを活用した小水力発電と地熱発電について説明。豊富な水力を利用した小水力発電を用いプロジェクトに活用しようと,宇奈月地内の水を調査した様子や課題・苦労話を交え,平成22年に行った小水力発電の実証実験の様子を説明。平成26年に恒久的小水力発電所を建設運用している状況を説明,次の建設計画案があることも紹介した。また,地熱資源開発について説明。地熱発電の特色は純国産・燃料不要・二酸化炭素排出無し・半永久的に利用可能であることをあげ,今後期待できる自然再生エネルギーであると話し,視察してきたアイスランドの地熱利用について,発電だけでなく暖房や温室・養殖など様々な活用状況を紹介。平成24年25年に地熱資源調査を実施し具体的に動き出した状況を説明。福島県土湯温泉へ視察に訪れ,小水力発電と地熱発電について将来の地域を担う高校生を巻き込んだ勉強会を開始させた事例についても説明。地下水熱カスケード利用システムについても説明され,井戸水を利用した地中熱ヒートポンプにより熱回収し,冷暖房や屋根融雪に活用する仕組みについて解説。宇奈月での地域エネルギーである木材・小水力・地熱(温泉廃湯熱)を活用したエネルギーマネジメントや,今年スタートした省エネルギービル構想についても解説した。
地域資源を利用することの意味は,地域エネルギー利用によって地域が潤うこと、化石燃料に依存しない社会システムの導入と地域が主体的に地域資源のマネージメントを行えるということであり,本当の地域創生は地域事情を知り尽くした形でないと成立しないと話した。
今回の講義内容についての質疑応答と意見交換がおこなわれた。小水力発電の取り組みや住民のコモンセンスについてや,地域エネルギーマネジメントについて,省エネルギービル構想について,木質バイオマスや流木活用による燃料化についてなど,エネルギー問題と水循環の関わりについてなど話し合われた。小水力発電が全国に広まらない理由についての質問に,上坂教授は技術と制度,経済性と地域の合意の4つの問題があるとし,特に地域の合意が課題で上流下流の流域水利権や環境問題・漁業権などの問題で前に進んでいかないことが多いと話した。
また、「魚津は山と海が近いから木質バイオマスなど山の木のエネルギー活用の可能性は高いし、小水力だけでなく地下水活用の地中熱ヒートポンプの活用など自然エネルギーの活用は充分に考えられる」と魚津での可能性を示した。