魚津三太郎塾第5期
魚津市/富山大学

事業レポートReport

魚津三太郎塾第5期 11日目

2016年8月26日
地域再生システム論
開催日時:平成28年8月26日(金)14:00〜17:00
場所:魚津市役所第2会議室

魚津三太郎塾第5期の11日目が開講。地域再生システム論の3回目として富山大学の奥敬一准教授から里山の再生と資源活用について学び,水循環の中で重要な役割を果たす森林の維持や課題解決への手法,魚津の里山の将来像や可能性を考えた。

11日目第14限

講義&討議
地域再生システム論③ 里山の再生と資源活用
講師:富山大学芸術文化学部 准教授 奥敬一氏
魚津三太郎塾第5期 11日目

講義の冒頭,日本の森林面積と木の成長について塾生へ質問。国土の7割弱が森林をしめることや樹木は先から成長することを確認。里山はどんな場所で,どんな使われ方をしていたかを,研究してきた琵琶湖西岸フィールドから過去の里山の姿を説明。江戸期の絵地図から,集落に隣接する田・畑と山・野の関係を示し,山・田・畑全てを営むことをセットにしたのが里山であると説明,それが高度経済成長以降,山との関係が途切れていったと話した。

現代の里山が抱える問題に,山が使われなくなったことで生じた生物生息地の変化や生物多様性への課題,伝染病のによる木々が枯れる被害の拡大,森林の成熟化をあげ解説。ナラ枯れ被害は森の年齢が40歳を超えたところに多くなると話し,老齢の木が増えたことでムシがつきやすくなると説明。山の手入れがされなくなった影響とし,成熟していく日本の森林は,里山にとっては良いことではないと話し,樹木の老齢化にともない再生力が低下していくと説明。

里山林は大径化すると萌芽力が低下し若返りが困難になると同時に,ナラ枯れのような病気の危険性が増すだけでなく,樹木下層の植物層への影響や手入れ,切り出しなどが困難となり,扱いづらくなると説明した。里山に手を加え再生を図る方法として小面積皆伐という管理の選択肢があると提示。間伐ではなく全て伐り,植生することで,枯れてしまう前に若返らせて,資源として活用できる構造にする管理法が里山再生には必要であると話し,将来的に,地域社会の人たちにも管理・利用しやすい状態で維持できるとした。

また,現代的な利用で里山と地域の再生を促すことが重要とし,里山林を活用した生業を地域の中につくることが大事とし,バイオマス活用などの事例を紹介した。(詳細は林野庁「農山村支援センター」ホームページ参照)農山村を支える考え方として,例えばバイオマスやキノコ山菜・薬草など幾つもの事業を組み合わせて生業とする「複業形態」での仕事と考えれば,様々な展開可能性が生まれ,小規模業態を混成した国際競争に巻き込まれない資源を利用した多数の副業・複業の考えが農山村の再生に必要とした。

補助金頼み,ボランティア頼みだけの里山管理だけでなく,管理で生じる材を生活のための資源として利用し,経済的価値や生活の豊かさのような価値を加え,利用のための動機付け生み出すことが大切と話し,社会実験として行った「薪による里山利活用」事業事例を紹介。薪は加工が最低限で大がかりな施設も装置も不要で維持管理も必要とせず,燃焼効率の高い燃料であり,薪ストーブでの火のある暮らしの楽しみが味わえるなど利点を説明。薪づくりの過程や薪ストーブ導入でのエネルギー利用の変化や二酸化炭素排出削減,生活の質の変化について,初期コストや薪の自読的確保などの課題などを報告。

薪ストーブ導入の社会実験を通じて個人や地域での里山管理への関わりが増えてきたと話した。また,薪需要の掘り起こしを図った薪の試験販売の様子や市民団体と協働でのモニタリング調査の様子を紹介し,持続的な薪生産への可能性を示した。最後に,里山からの資源活用の原則として「資源・環境の持続性を重視する」「多様な関係者によるモニタリングを行い,順応的に対応する」「日常生活にプラスアルファの価値を付け加える産品をめざす」「ひとつの産品で無理に専業化させない」「資源の買い手に,よい『物語』を提供する」ことあげ講義を終了した。

質疑応答&討議

テーマ:里山の再生と資源活用
※里山とは?その機能と現状 ※自然と企業の共通価値は?環境配慮指向
論点1 理想的な人と自然の付き合い方,距離感
論点2 企業(産業)にはどのような視点,関わり方が求められているのか

今回の講義内容に関しての塾生からの質疑と講師からの応答とディスカッションが行われた。塾生から地域連携の事例についてや薪以外の木材資源の活用について,山林所有者と開発の関係,小面積皆伐について,針葉樹と広葉樹の管理の違いなどの質疑に応答した。

奥准教授は森林資源の活用について,使われていない多くの資源を使っていくという考えが根本で,材木以外の使い方を考える必要がある。だが,やり過ぎると木の切りすぎという課題も生じると話した。また,魚津のフィールドでの展開について,地域の歴史や文化を捉え,自然環境や将来像などを見据え,取り組むことが大切であると話した。塾生たちは魚津の水循環において重要な役割を占める魚津の里山の将来を考えた対応の必要性を再確認した。