Maekawa Lab
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Research Topics [1, 2, 3, 4, 5, 6, 7, 8, 9, 10, 11, 12, 13, 14, 15, 16, 17, 18, 19, 20, 21, 22, 23, 24]

10. 初期巣で兵隊に分化する個体が見せる特有の行動とは?

 シロアリの兵隊分化は稀な現象であるために,分化前から個体を追跡して観察することはふつう出来ません。しかしながら,雌雄の有翅虫(王と女王)による創設直後の巣(初期巣)では,ほぼ同時期に兵隊がごく少数だけ(多くの種では1頭のみ)分化するため,その個体をあらかじめ特定できれば,兵隊分化の過程を詳細に追跡することが出来るかもしれません。それを確かめるために,大型で個体観察が容易なネバダオオシロアリ(図1)を用いて,初期巣で産まれた子供を個体識別し,どの個体が兵隊に分化するかを調べました(Maekawa et al. 2012)。その結果,調べた全ての巣において,最も早く3齢になった個体(No. 1と呼びます)が約8日間で前兵隊(兵隊の前段階)へ分化しました。一方,No. 1よりも遅れて3齢になった個体(No. 2やNo. 3)は,約20日後に4齢に脱皮しました。ただし,3齢になった直後のNo. 1を巣から取り除いてしまうと,多くの巣でNo. 2やNo. 3から前兵隊が分化しました(図2)。これは,No. 1が兵隊に分化することが生得的に決まっているわけではないことを示すと共に,3齢の時期の何らかの要因が前兵隊分化を引き起こしていることを示唆します。この要因を探るため,各個体の行動をビデオ撮影して解析しました。その結果,No. 1はNo. 2よりも,王や女王の肛門からの栄養交換(動画1)を顕著に多く受けているのに対して,他個体へのグルーミング行動(動画2)の頻度は有意に低いことが分かりました(図3)。
 兵隊の分化には幼若ホルモン(juvenile hormone: JH)量の上昇が必要ですが,個体間の頻繁な栄養交換行動が,直接的あるいは間接的にJH量の上昇に関与していることが考察されます。本研究は,自然条件下で兵隊分化を追うことのできた初の事例であり,兵隊分化の至近機構の解明に繋がる重要な発見であると考えています。
[前川清人,2012年11月26日]

<参考文献>
Maekawa K, Nakamura S & Watanabe D, 2012. Zoological Science, 29: 213-217.


図1.ネバダオオシロアリの初期巣。茶色の個体が生殖虫(王と女王)で,中央の大顎が巨大な個体が兵隊。本種の初期巣では,長期間兵隊が1頭だけ存在することが知られる。兵隊は職蟻(ワーカー)からの2回の脱皮で分化する。バーは5 mm。


図2.各初期巣において前兵隊への分化個体を追跡した結果。通常は最も早く3齢になった個体(No. 1)が前兵隊に分化するが,もしNo. 1を除去すると,多くの巣でNo. 2やNo. 3が前兵隊に分化する。


図3.各初期巣における行動解析の結果。No. 1は3齢期(約8日間)において,生殖虫からの肛門からの栄養交換を顕著に多く受ける(aおよびc)。一方,No. 2はNo. 1よりも他個体へのグルーミング行動の頻度が有意に高い(bおよびd)。

      
      (動画は現在見ることができません)                  (動画は現在見ることができません)

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