Maekawa Lab
Contents
1) Research Topics
2) Publications
3) Lectures
4) Grants & Awards
5) Members
6) Links

Research Topics [1, 2, 3, 4, 5, 6, 7, 8, 9, 10, 11, 12, 13, 14, 15, 16, 17, 18, 19, 20, 21, 22, 23, 24]

11. タカサゴシロアリの兵隊特異的な器官形成におけるDistal-less遺伝子の役割

 シロアリの兵隊は,種ごとに多様化した形態をしています(トピックスIX参照)。系統的に最も派生的なシロアリ科テングシロアリ亜科の兵隊は,nasusと呼ばれるツノ状の突起構造を有し,額腺で合成された防衛物質を外敵に向けて噴出します(トピックスIII参照)。nasusは祖先的な種は保有しておらず,テングシロアリ亜科で獲得された独自の器官(新奇形態)です。そのような兵隊特異的な器官がどのようにして形成されるのかを探ることは,兵隊の分化機構を明らかにする上で重要です。新奇形態に関しては,生物が元来保有している遺伝子を使い回すことによって進化しうることが,近年の発生生物学により明らかにされています。例えば,コウチュウの新奇形態であるツノの形成には,ショウジョウバエの脚や翅の遠位部の形成に働くDistal-less (Dll) が関与することが知られています。この遺伝子は,後生動物で保存された遺伝子で,多くの動物の付属肢で発現しています。テングシロアリ亜科がもつnasusも,付属肢やツノと同じようにクチクラが突出した構造です。そこで,nasusやnasus内部に形成される額腺の形成にDllが関与するのかを明らかにするため,タカサゴシロアリを材料に以下の解析を行いました(Toga et al. 2012)。
 本種の前兵隊の分化は,JH類似体(ハイドロプレン)により誘導可能で,前兵隊へ脱皮する職蟻は,腹部の白色化によって見分けることができます(Toga et al. 2009;トピックスIII参照)。そこでまず,腹部の白色化から前兵隊への脱皮まで,nasusや額腺の形成を組織学的に観察しました。その結果,白色化後の時間経過に伴って,上皮細胞の折りたたみや陥入がダイナミックに進行することが分かりました(図1)。次に,腹部の白色化から1日後の職蟻を用いて,免疫染色法によりDllタンパク質の局在を調べました。その結果,Dllは額腺には局在せず,nasus原基のいくつかの細胞に局在することが示されました(図2)。さらに,nasusと額腺の形成におけるDllの機能を探るため,二本鎖RNAを体内に注入することで機能阻害を誘導できるRNA干渉法(RNAi)を行いました。その結果,nasus原基の形成やnasusの発達が著しく抑制されましたが,RNAiによってnasusが短小化した前兵隊の額腺は,正常に形成されていました(図3)。以上より,Dllはnasusの形成だけに特に重要な役割を果たす因子であることが示されました。

 本研究の結果から,テングシロアリ亜科のnasusの獲得には,Dllを頭部背面で新たに発現させることが重要であったと考えられます。前兵隊分化には高い幼若ホルモン(juvenile hormone: JH)量が必要であるため,JHがDllの発現を誘導する可能性も考えられます。今後はJHのシグナル伝達経路とDllなどの形態形成遺伝子との関係を探ることが,nasusの進化発生機構の解明に重要であると考えています。[栂浩平,2012年12月3日]

<参考文献>
Toga K, Hojo M, Miura T, Maekawa K, 2009. Zoological Science, 26: 382-388.

Toga K, Hojo M, Miura T, Maekawa K, 2012. Evolution & Development, 14: 286-295.


図1.腹部が白色化した職蟻の頭部組織切片像。巣内の職蟻(A, B)と,腹部が白色化して0日目(C)と5日目(E)の個体の組織切片像。白色化後5日目の上皮の折りたたみ(E, 矢じり)は同心円状のnasus原基(D)を形成する。スケールバーは0.1 mm。矢じりはnasus原基。


図2.腹部が白色化して1日目の職蟻頭部を用いたDllの免疫染色(A, B)およびDAPI染色(C, D)の結果。矢じりはnasus原基,アステリスクは額腺細胞,矢印はDllの強いシグナルが観察された細胞を示す。スケールバーは0.1 mm。


図3.DllのRNAiがnasus形成に与える影響。腹部が白色化して5日目のワーカーのnasus原基の走査型電子顕微鏡像(上段),前兵隊の頭部写真(中段)および組織切片像(下段)。Dll(A, C, E)とgfp(B, D, F)のsiRNAを注入した時の結果を示す。DllのRNAiにより,nasus原基の形成が阻害されnasus長が短小化したが(A,C),nasus原基中央の4本の感覚毛(A,B,矢じり)や額腺貯蔵嚢(E,F)の形成には影響が見られなかった。スケールバーは0.1 mm。

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