Maekawa Lab
Contents
1) Research Topics
2) Publications
3) Lectures
4) Grants & Awards
5) Members
6) Links

Research Topics [1, 2, 3, 4, 5, 6, 7, 8, 9, 10, 11, 12, 13, 14, 15, 16, 17, 18, 19, 20, 21, 22, 23, 24]

8. シロアリの兵隊で見られる大顎の退縮とプログラム細胞死

 シロアリの兵隊が分化するには,ワーカーからの2回の脱皮が必要ですが(トピックIII参照),この脱皮には,極めてダイナミックな形態変化(様々な器官の誇張化や退縮)が伴います。シロアリの中で最も派生的なシロアリ科テングシロアリ亜科に属する種の兵隊の場合,頭部にはツノ状の突起構造(nasus)と外分泌腺(額腺)が形成されますが(トピックIII参照),同時に大顎は顕著に退縮します。この大顎の退縮メカニズムを明らかにするために,タカサゴシロアリの兵隊分化時の大顎を組織形態学的に解析しました(Toga et al. 2011)。
 まず,ワーカー・前兵隊・兵隊の大顎の相同な箇所を指標に,3つの長さを測定しました。その結果,ワーカーと前兵隊の大顎は全ての箇所で有意差が検出され,前兵隊への脱皮時に,特に顕著な大顎の退縮化が生じることが示されました(図1)。本種は,ワーカーに幼若ホルモン(juvenile hormone: JH)類似体を投与することで,前兵隊の分化が誘導できることが示されています(Toga et al. 2009)。そこで,この方法を用いて,前兵隊への分化途上のワーカーの大顎の組織切片を作製し,内部の形態変化を観察しました。前兵隊へ分化する1週間ほど前の個体では,新しい大顎のクチクラが元のクチクラから分離し始めているのが観察されました。一方,分化直前の個体の大顎では,新しく形成された大顎のクチクラは肥厚し,顕著に退縮しているのが観察されました(図2A)。一般的に動物において,ある器官の退縮に関与する発生メカニズムとして,プログラム細胞死が挙げられます。そこで次に,本種の大顎の退縮にも同じメカニズムが働いているか否かを明らかにするために,TUNEL法(プログラム細胞死の際に生じる断片化されたDNAを検出する方法)による特異的なシグナルの検出を試みました。その結果,前兵隊への分化直前の個体において,スポット状の特異的なシグナルが,顕著な退縮を示す発生中の大顎のクチクラで観察されました(図2B)。このシグナルは,大顎が退縮しないワーカーからワーカーの脱皮時には,全く観察されませんでした。
 本研究は,昆虫の大顎の退縮にプログラム細胞死が関与することを示した初の報告です。本種の兵隊は,頭部に大顎以外の武器形質(nasusや額腺)を発達させていますが,その代わりに,大顎を細胞死により退縮させる生理的なメカニズムが存在することが示されました。兵隊分化にはJH量の上昇が必要なので,このメカニズムはJHのシグナル伝達経路と密接に関係していると考えられます。また,武器形質の発生におけるトレードオフを調節するメカニズムであるとも考えられます。兵隊分化に伴う特異的な器官形成には,如何なる生理的メカニズムが働いているのか,現在さらに解析を進めています。[前川清人,2011年11月21日]

<参考文献>
Toga K, Hojo M, Miura T, Maekawa K (2009) Zoological Science, 26: 382-388.
Toga K, Yoda S & Maekawa K (2011) Naturwissenschaften, 98: 801-806.

↑上記論文に関するSpringer社のプレスリリースはこちら

図1.各発生段階における右大顎の形態計測の結果 (n=10)。ワーカーと前兵隊は,測定部分の全てが有意に異なる (Tukey's test, p<0.05)。

図2.前兵隊分化の直前のワーカーの右顎の組織切片像 (A) およびTUNEL染色像 (B)。プログラム細胞死を特徴づける特異的なスポット状のシグナルが観察される。

HOME