Maekawa Lab
Contents
1) Research Topics
2) Publications
3) Lectures
4) Grants & Awards
5) Members
6) Links

Research Topics [1, 2, 3, 4, 5, 6, 7, 8, 9, 10, 11, 12, 13, 14, 15, 16, 17, 18, 19, 20, 21, 22, 23, 24]

15. カースト特異的なクチクラ形成の分子メカニズム

 真社会性昆虫であるシロアリは,カースト(職蟻,兵隊,生殖虫)による分業によって複雑な社会を構築しています。各カーストは,それぞれの役割に適した極めて特徴的な形態を有します。特に,巣の防衛を担う兵隊は,巨大で強固な大顎や頭部を発達させるなど,他のカーストとは大きく異なる形態を持ちます。表皮を覆うクチクラの性質も,それぞれのカーストで大きく異なっています。職蟻は,木材を咀嚼するために大顎のクチクラが特に硬くなっていますが,兵隊は,頭部全体が肥厚した堅固なクチクラに覆われています。巣外に分散し,次世代の女王や王になる有翅虫は,体全体が黒色のクチクラで覆われています。この様なカースト特異的なクチクラは,どのようなメカニズムによって形成されるのでしょうか。一般に,昆虫のクチクラの性質を決定する重要な経路として,チロシン代謝経路が知られています。各カーストへの分化には必ず脱皮が必要なため,脱皮時のチロシン代謝経路の役割に注目して解析を行いました。
 まず,ゲノム情報が利用できるネバダオオシロアリの職蟻,前兵隊(兵隊の前段階),兵隊,有翅虫への脱皮時において,チロシン代謝経路遺伝子の発現および機能解析を行いました(Masuoka & Maekawa, 2016a)。各脱皮過程での発現パターンは明瞭に異なっており,職蟻への脱皮ではyellow遺伝子(yellow),前兵隊への脱皮ではarylalkylamine N-acetyltransferase遺伝子(aaNAT),兵隊への脱皮ではLaccase2遺伝子(Lac2),有翅虫分化ではdopamine decarboxylase遺伝子(DDC)が高発現していました(図1)。これらの遺伝子の発現を,RNA干渉(RNAi)法を用いてノックダウンすると,各カーストを特徴づけるクチクラの形成が阻害されました(図2)。
 次に,チロシン代謝経路遺伝子の制御機構を明らかにするため,脱皮ホルモン(エクダイソン)のシグナル経路に注目しました(Masuoka & Maekawa, 2016b)。クチクラの顕著な色素沈着と硬化が生じる兵隊分化過程では,前兵隊への脱皮直後にエクダイソン受容体遺伝子(EcR)が顕著に高発現することが示されました(図3)。この時期のEcRのノックダウンは,兵隊への脱皮を抑制しました。一方,前兵隊期のEcRのノックダウンは,兵隊分化後のクチクラの色素沈着と硬化を阻害しました(図4左)。さらに,EcRのノックダウンにより,チロシン代謝経路遺伝子の発現が影響を受けることも分かりました(図4右)。
 以上の結果から,各カーストを特徴づけるクチクラの形成は,チロシン代謝経路遺伝子の発現レベルによって制御されることが示されました。さらに,兵隊の色素沈着した強固なクチクラの形成は,前兵隊期のエクダイソンシグナルの活性化によって制御されることが分かりました。シロアリのカースト分化におけるエクダイソンの機能は未解明でしたが,幼若ホルモン(JH)と同様に,カースト特異的な形態形成にかかわることが初めて示されました。[増岡裕大,2018年3月16日]

<参考文献>
Masuoka Y & Maekawa K (2016a) Insect Biochemistry and Molecular Biology, 74: 21-31.
Masuoka Y & Maekawa K (2016b) FEBS Letters, 590: 1694-1703.


図1.各脱皮過程での頭部におけるチロシン代謝経路遺伝子の発現パターン。それぞれの脱皮過程で特徴的に発現変動する遺伝子の結果のみ示す。赤矢印は脱皮の時期を表す。


図2.RNAiによる機能解析の結果。それぞれの脱皮過程で特徴的に高発現するチロシン代謝経路遺伝子をノックダウンした。有翅虫は全身の黒色化が抑制され(上),兵隊は頭部と大顎のクチクラの色素沈着が抑制された(右下)。前兵隊は,大顎と頭部の先端部分のクチクラが色素沈着した(左下)。


図3.各脱皮過程での頭部におけるエクダイソン受容体遺伝子(ZnEcR)の発現パターン。赤矢印は脱皮の時期を表す。前兵隊への脱皮直後に高発現する。


図4.RNAiによる機能解析の結果。前兵隊期にエクダイソン受容体遺伝子(ZnEcR)をノックダウンすると,兵隊頭部のクチクラの色素沈着が抑制された(左)。ZnEcR遺伝子のノックダウンにより,チロシン代謝経路遺伝子のいくつかは発現レベルが変動した(右)。ZnebonyとZnLac2の発現は低下したが,ZnaaNATの発現は上昇した。

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