Maekawa Lab
Contents
1) Research Topics
2) Publications
3) Lectures
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5) Members
6) Links

Research Topics [1, 2, 3, 4, 5, 6, 7, 8, 9, 10, 11, 12, 13, 14, 15, 16, 17, 18, 19, 20, 21, 22, 23, 24]

23. シロアリの幼若ホルモン結合遺伝子takeout:遺伝子重複と新たな機能の獲得

 シロアリの社会性の進化には,遺伝子重複が重要だった可能性があります(リサーチトピックス21参照)。この仮説の検証には,更に多くの証拠が必要です。解析対象になりうる重要な候補として,幼若ホルモン結合タンパク質(takeout)遺伝子を挙げることができます。幼若ホルモンは,シロアリのカースト分化に重要で(リサーチトピックス13や14参照),いくつかのシロアリでは,takeout遺伝子の様々な役割が示されています。ただし,takeout遺伝子はシロアリにいくつ存在し,発現や機能にどのような違いがあるのかはよく分かっていませんでした。そこで,ゲノムが解読されたヤマトシロアリReticulitermes speratusを用いて,ゲノム配列からtakeout遺伝子を探索し,各遺伝子のゲノム上の位置や発現を詳細に調べました(Fujiwara et al., 2023)。
 まず,本種のゲノム配列から,保存ドメインを有する25個のtakeout遺伝子を同定しました。ゲノム情報を用いたカースト間のRNA-seq解析の結果,多くの遺伝子がカースト特異的に発現することが分かりました(図1)。次に,ゲノム上にタンデムに並ぶ2つのtakeout(RsTO1とRsTO2)遺伝子の配列を新たに取得しました。これらに特に注目し,カースト間の発現レベルをリアルタイム定量PCRで解析しました。その結果,RsTO1とRsTO2遺伝子は,女王と兵隊でそれぞれ高発現することが分かりました(図2)。
 続いて,女王の分化に伴うRsTO1遺伝子の発現パターンを調べるため,分化前の個体(翅芽虫),分化直後の個体(有翅虫),コロニー形成後の女王を用いて発現解析を行いました。その結果,有翅虫の段階で最も発現レベルが高いことが分かりました(図3)。同じサンプルを用いて,卵黄前駆タンパク質vitellogenin(RsVg)遺伝子の発現を解析したところ,有翅虫よりも女王で高発現していました(図3)。RsVg遺伝子は,生殖腺の発達した女王の脂肪体で発現しますが(Yaguchi et al., 2023),RsTO1遺伝子の発現部位は全く異なる可能性があります。そこで,雌の有翅虫を用いて,in situハイブリダイゼーションで解析したところ,頭部に存在する外分泌腺(額腺)でシグナルが検出されました(図4)。
 次に,兵隊の分化に伴うRsTO2遺伝子の発現パターンを調べるため,分化前の前兵隊をコロニーから回収し,分化直後から6日目までの兵隊を集めて解析しました。その結果,兵隊に分化して6日目までに,RsTO2遺伝子の発現レベルが上昇することが分かりました(図5)。同じサンプルを用いて,兵隊の防衛物質(テルペン類)の合成に関与するゲラニルゲラニル2リン酸合成酵素(GGPPS)遺伝子(Hojo et al., 2011)の発現パターンを調べました。その結果,RsTO2遺伝子と同様に,兵隊分化後に発現レベルが上昇することが分かりました(図5)。兵隊の額腺は,前兵隊の時期に形成が開始されますが,分化後に大きく発達するため,GGPPSによる防衛物質の合成も分化後に盛んに行われると考えられます。最後に,RsTO2遺伝子の発現部位をin situハイブリダイゼーションで調べたところ,兵隊の額腺に強いシグナルが検出されました(図6)。
 本研究で明らかにされたヤマトシロアリのtakeout遺伝子は,遺伝子重複で新たな機能が獲得された例であると考えられます。ゲノム上で隣接するRsTO1とRsTO2遺伝子は,異なるカーストがもつ相同の器官(額腺)で発現することがわかりました。各遺伝子産物は,雌の有翅虫と兵隊のそれぞれの額腺で合成される化学物質と,特異的に相互作用する可能性があります。今後は,それぞれの産物がもつ役割の違いや,遺伝子発現を調節するしくみを調べ,他のtakeout遺伝子の機能や分子系統解析を進めることで,社会性進化における遺伝子重複の重要性を総合的に理解することができるようになると考えられます。[藤原克斗・前川清人,2023年6月7日]

<参考文献>
Fujiwara K, Karasawa A (equally contributed) et al. (2023) Scientific Reports, 13: 8422.
[Open Access]
Hojo M et al. (2011) Archives of Insect Biochemistry & Physiology, 77: 17-31.
Yaguchi H et al. (2023) Journal of Experimental Zoology B, 340: 68-80.


図1.ヤマトシロアリのゲノム配列から同定された25個のtakeout遺伝子の発現パターン。色の違いは発現レベルの差を示す。


図2.ゲノム上に隣接する2つのtakeout(RsTO1とRsTO2)遺伝子のリアルタイム定量PCR解析の結果。RsTO1遺伝子は女王,RsTO2遺伝子は兵隊で特に発現量が高いことが示されている。グラフ上のアルファベットは有意差を示し,異なる場合に有意であることを表す。


図3.女王に分化する過程での2つの遺伝子のリアルタイム定量PCR解析の結果。RsTO1遺伝子は有翅虫,卵黄前駆タンパク質(RsVg1)遺伝子は女王において発現量が有意に高いことが示されている。グラフ上のアルファベットは有意差を示し,異なる場合に有意であることを表す。


図4.雌の有翅虫の頭胸部を用いたin situハイブリダイゼーションの結果。頭部に存在する外分泌腺(額腺)にmRNAのシグナルが確認される(矢尻)。スケールバーは0.3 mm (a) と0.05 mm (b) を示す。


図5.兵隊に分化する過程での2つの遺伝子のリアルタイム定量PCR解析の結果。RsTO2遺伝子は兵隊分化後6日目,ゲラニルゲラニル2リン酸合成酵素(GGPPS)遺伝子は兵隊分化後2日目と6日目において発現量が有意に高いことが示されている。グラフ上のアルファベットは有意差を示し,異なる場合に有意であることを表す。


図6.兵隊の頭部を用いたin situハイブリダイゼーションの結果。頭部に存在する外分泌腺(額腺)にmRNAのシグナルが確認される(矢尻)。スケールバーは0.2 mm (a) と0.05 mm (b) を示す。

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